震災と釜石の居酒屋 眉村孝 作家 連載「口福の源」
「ごめんね。海がしけてるので、大したものがないのよ。それでもよいのなら」。JR釜石駅(岩手県釜石市)近くにある居酒屋「とんぼ」ののれんをくぐると、女将(おかみ)からカウンター越しに声をかけられた。9月8日午後8時過ぎのことだ。 その日は埼玉県内の自宅を早朝に出て、東北新幹線、JR八戸線と乗り継ぎ、...
八戸のヒラメに舌鼓」 眉村孝 作家 連載「口福の源」
9月8日金曜日の9時43分。JR八戸線の普通列車が陸奥湊(むつみなと)駅に着くと、私は足早に改札口を出て「みなと食堂」をめざした。八戸港の近くで道には魚介や生鮮の店が並ぶ。物珍しげに見回していると、同じ列車に乗っていた女性2人組に抜かれた。うかうかしてはいられない。 食堂へ到着すると小さな店の中は...
川霧と温泉と田舎料理 眉村孝 作家 連載「口福の源」
8月初めの夕暮れ時。私は福島県三島町、JR只見線が只見川を渡る第二只見川橋梁のそばで、橋や川面を眺めていた。 尾瀬ケ原を水源とする只見川は水量が豊かで、元々の流れは急だ。だが現在は発電を目的とした大小10以上のダムがある。三島町付近の只見川は、ダムが近いため湖のように穏やかで、木々や青い空、只見線...
明治の若者も牛肉大好き 畑中三応子 食文化研究家 連載「口福の源」
NHKの朝ドラ「らんまん」で、主人公の槙野万太郎は、うれしいことがあると仲間と牛鍋を食べに行く。 初めて行ったのは、1回目の上京時。牛肉自体が初体験で、同行の竹雄とグツグツ煮える牛鍋を緊張の面持ちで見つめ、こわごわ口に入れるや「うまいー」「甘くてたまらん」「口んなかで溶けた」と感激し、のけぞる様子...
自作推し「カポナータ」 眉村孝 作家 連載「口福の源」
40歳を前にして初めて単身赴任が決まったとき、日々の生活についていくつか決心をした。そのうちの一つが「コンビニ弁当は食べまい」。ランニングやスポーツを続けてはいたが、記者を20年近く続けた身体は少しずつガタがきている。周りには、地方転勤で食生活を乱し、恐ろしく「成長」したり、体調を崩したりする人が...
長崎・鷹島にアジあり 小島愛之助 日本離島センター専務理事 連載「口福の源」
アジの水揚げ高日本一を誇る都市で、近年「アジフライの聖地」として売り出し中の長崎県松浦市は、伊万里湾に浮かぶ5つの有人離島(福島、鷹島、黒島、飛島、青島)を行政区域としている。今回は、このうち鷹島について紹介したい。 旧鷹島町の鷹島は2006年元日、松浦市・福島町と合併し松浦市となった。その後、0...
市場めしより「てっぺん」 眉村孝 作家 連載「口福の源」
6月初め、急な仕事で札幌へ出張した。宿を探していて見つけたのが、市民の台所「二条市場」に近いホテルだ。市場の場所は、札幌市中央区の大通公園の南東側。明治初期、石狩浜の漁師が川を上って札幌へ入り、鮮魚などを販売したことが始まりだという。 私には「市場での食事=市場めし」に惹(ひ)かれる傾向がある。初...
3年トラフグ、沼島でも 小島愛之助 日本離島センター専務理事 連載「口福の源...
沼島は、淡路島の南4.6キロの紀伊水道北西部に浮かぶ離島であり、兵庫県南あわじ市に属している。面積2.71平方キロ、周囲9.53キロに、202世帯、392人(2022年12月末現在)が暮らしている。公共交通機関によるアクセスは、神戸三宮から高速バス(1時間30分)とコミュニティーバス(1時間)を乗...
名物キビナゴを食す 小島愛之助 日本離島センター専務理事 連載「口福の源」
甑島(こしきしま)は鹿児島県薩摩川内市の川内川河口から西約26㌔の東シナ海上に位置し、上甑島、中甑島、下甑島の三つの有人離島が、北東から南西に35㌔にわたって連なっている。 変化に富んだリアス式海岸や8000万年前(白亜紀)の地形がむき出しになった断崖など、圧倒的な自然の景観美と太古のロマンにあふ...