食べ物語

カヌレ温故知新  畑中三応子 食文化研究家  連載「口福の源」

2024.04.08

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カヌレ温故知新  畑中三応子 食文化研究家  連載「口福の源」の写真

 スイーツ界ではこの2、3年「カヌレ」人気が再燃している。

 最初のブームは、1996年だった。90年代はティラミスを皮切りに、新種の菓子が現れては流行を繰り返した時代。東南アジア発祥のナタデココやタピオカも混じっていたため、〝洋菓子〟や〝ケーキ〟ではくくれなくなってしまった。そこで生まれたのが〝スイーツ〟という呼び方である。和洋中エスニックを総称できる便利な言葉として、急速に普及した。(写真はイメージ)

 カヌレは、正式名を「カヌレ・ド・ボルドー」という。16世紀から仏ボルドー地方の修道院で作られ、フランス革命の影響で一時レシピが失われてしまったが復活し、ボルドーを代表する銘菓になった。当地では同業組合(ギルド)が組織され、伝統的な製法を守っている。

 材料は卵と牛乳と砂糖、小麦粉とベーシックで、ラム酒とバニラの香りを利かせる。ボルドーといえば、ワインの大産地。なぜラム酒? と不思議に思うが、ボルドー港はアフリカやアメリカ大陸との交易拠点だったため、ラム酒とバニラを使うのは土地ならではの特徴で、カヌレの必須条件でもある。

 溝が入った円筒形の銅製の型に、蜜ろうを塗るのも特徴だ。中身が簡単に外れるだけでなく、独特な食感を与える。

 生地は2、3日寝かせ、高温長時間で外側は黒に近い焦げ茶色に焼き上げる。かむとバリッと硬いが、中はしっとりもっちりした半生風。その不思議で意表を突く食感が大受けした。

 郷土菓子のカヌレがフランスで全土に知られるようになったのは90年以降だったが、ほとんど時差なく日本に伝わり、フランス人もびっくりの大ブームが降って湧いた。全国の洋菓子店が輸入業者に専用の型を一斉に注文したため、フランスはおろかヨーロッパ中で型が姿を消し、ひと頃は入荷待ち1カ月かそれ以上だったそうだ。日本のスイーツブーム、恐るべしである。

 第1次ブームは伝統レシピのカヌレが中心だったのに対し、今回のブームは大きくアレンジしたカヌレが主役。その代表が、小麦粉の代わりにゼラチンを加え、焼かずに非加熱で固めた「カヌレット」(UHA味覚糖)である。キャンディータイプの一口サイズで、コンビニではグミの棚で販売されたことも話題を呼んだ。

 コンビニ各社はカスタードクリームを中に詰めたり、ホイップクリームを飾ったりしたケーキ風カヌレを発売。中には元のカヌレの面影を少ししか残していないものもある。また、全国で続々オープンした専門店は、西京みそ、黒ごま、きなこといった和風味も取り入れ、かわいいデコレーションのSNS映えするカヌレを次々と開発している。

 日本独自の進化を遂げているカヌレ、ボルドーの人たちが見たらびっくり仰天するだろう。とんかつやラーメンと同じように、和菓子と化しそうな勢いだ。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年3月25日号掲載)

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