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高収量品種の導入で成果  エチオピア、種保存では課題  連載「アフリカにおける農の現在(いま)」第10回

2021.05.21

高収量品種の導入で成果  エチオピア、種保存では課題  連載「アフリカにおける農の現在(いま)」第10回の写真

 連載の第3回では南アフリカを事例に、化成肥料や改良品種、灌漑(かんがい)などの「農業投入財」の普及が単収増加をもたらしたことを紹介した。ほかのアフリカの国では高投入の農業をめぐり、どのような動きがあるのだろうか。

 今回はエチオピアを事例として、改良品種や新しく導入した作物の普及と栽培、利用に関する具体例を先行研究や現地調査で得られたデータをもとに紹介する。

 特に小麦栽培に注目し、国内で行われてきた普及のプロジェクトと、病気(病原体)に対して抵抗性を持つ改良品種の普及と栽培の状況を取り上げ、高投入農業がもたらす成果と課題を考える。(写真:収穫期を迎えたパンコムギの改良品種、2017年12月=下山花撮影)

 エチオピアは東アフリカに位置する国で、日本の約3倍の国土に約1.1億の人びとが暮らしている。エチオピア中央統計局の報告によると、生産量の大きい順にトウモロコシ、モロコシ、テフ(エチオピアの主食穀物)、小麦などの穀物が生産されている。(参考文献①、文末参照、以下同)

 国連食糧農業機関(FAO)のデータに基づくと、エチオピアはアフリカ諸国の中でエジプトとモロッコに続き、3番目に小麦生産量が多く、その生産量は下の図(②)のように拡大している。

210519アフリカグラフ.png

         (グラフ:下山花作成)

SG2000とNEP


 1993年に笹川平和財団とエチオピア農業省が共同で開始した「ササカワグローバル2000プログラム(SG2000)」は、複数の投入財の利用と技術支援が小麦の収量増加をもたらした普及プロジェクトとして高く評価されてきた。

 小麦やトウモロコシなどの高収量品種と化成肥料とを組み合わせた農業投入財の普及と、展示圃場(農地)で耕作方法、除草や追肥を適期に行う技術指導が実施されてきた。SG2000に参加した農民は、平均よりも大きな耕作面積と世帯内労働力を有していたことが明らかになっている。

 エチオピア政府は普及の対象を拡大することを目指し、1995年にSG2000の方法を取り入れた「新普及システム(NEP)」を独自に設立した。

 NEPが農業に不向きな地域に暮らす、より貧しい世帯を対象に普及の活動を広げていくには、普及員の増員や貸し付けの金利の見直し、種子や肥料、殺虫剤などの農業投入財の適期かつ低価格での供給が必要であると指摘されている。(③)

さび病に打ち勝つ品種改良


 近年、人口増加や食生活の変化にともない、エチオピア国内の小麦需要が高まっている。小麦改良プログラムでは、菌類が葉に感染し胞子を作る黒さび病や黄さび病による品質と収量の低下が重大な課題となっている。(④)

 エチオピアにおける小麦の育種プログラムは1960年代に始まり、高収量性および病原菌や乾燥などのストレスへの抵抗性をそなえた品種の作出を目指してきた。
 1967年から2016年の50年の間に、このプログラムを通じて、パンコムギ(主にパンの材料)とデュラムコムギ(主にパスタやマカロニの材料)を合わせて133の品種が発表された。(⑤)

 国際トウモロコシ・コムギ改良センター(CIMMYT)のエチオピア事務所に所属する研究チームが、小麦栽培地域に暮らす2096世帯に2009年と13年に聞き取り調査を行った結果、既存の栽培品種が感染しやすい新しい黄さび病が2010年に流行し、調査対象世帯の3分の2が被害を受けたことが分かった。

 それをきっかけに、この黄さび病にも抵抗性を持つ新しい改良品種の開発と普及が進んだ。さび病抵抗性を有する改良品種の栽培は、09年の時点で小麦の耕作面積の3%と限定的であったが、13年には全耕作面積の27.1%に拡大していることが明らかになった。(④)

改良パンコムギの普及とその課題


 エチオピアはデュラムコムギをはじめ南西アジア起源の「二粒系コムギ」(1小穂あたり2小花が結実するコムギ)の遺伝的多様性(同じ種でも持っている遺伝子に違いがあり多様であること)の中心地とされ、多様な形質が報告されてきた。

 しかし、さび病抵抗性を有したパンコムギや、矮性(草丈の短い性質)で高収量性を有するパンコムギの改良品種の普及に伴い、デュラムコムギの在来品種は改良されたパンコムギ品種に置き換わりつつある。

 遺伝資源の多様性は、多様な生態環境に適応し、病気に抵抗性を有する作物を作出する際に、欠かせない重要な要素となる。品種改良の技術を通じて、さび病の克服を進めているエチオピアでは、在来品種の遺伝的多様性を保全していくことが課題として残されている。

 パッケージ化された普及システムや耐サビ病品種の普及は、小麦の生産量の拡大という成果を一時的にもたらしたかもしれないが、持続可能な農業のあり方や農の生物多様性の保全との調和という課題を残した。

 次回はエチオピアが1970年代に導入したライコムギを事例に、農民がどのように新しい品種と向き合い、海外から導入した作物を既存の農耕と食文化の中に取り込んで能動的に受容してきたか、明らかにする。


 下山 花(しもやま・はな)京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻

 高橋 基樹(たかはし・もとき)京都大学教授、神戸大学名誉教授。京都大学アフリカ地域研究資料センター長。元国際開発学会会長。専門はアフリカ経済開発研究


連載「アフリカにおける農の現在(いま)」では、アフリカの農業と食の現状を、京都大学の高橋基樹教授が若い研究者とともに報告します。


第1回:希望の大陸? 人口増加と世界
第2回:野菜・果実が主役に 農産物輸出の拡大と変貌
第3回:穀物生産は立ち上がるか 肥料増で生産性上向く
第4回:飢餓の大地の今 食料安全保障の動向
第5回:購買力向上で食料援助は減少 国連世界食糧計画にノーベル平和賞
第6回:広がったキャッシュ・フォー・ワーク 被支援者の主体性強化
第7回:高付加価値野菜の輸出が拡大 豆類や半加工食品、欧州・アジアへ
第8回:小規模農家に利益もたらす? 広がる契約農業
第9回:受け入れられる契約農業 リスク回避策として選択
第11回:食文化への適合も背景に 新作物ライコムギの受け入れ


参考文献(第10回)
①Central Statistical Agency. 2020. Area and production of major crops (private peasant holdings,meher season) 2019-2020 (2012 E.C.). Statistical bulletin 587. the Federal Democratic Republic of Ethiopia Central Statistical Agency.
②2021. FAOSTAT Crops. http://www.fao.org/faostat/en/#data/QC 2021年4月7日閲覧。
③Howard, J., M. Demeke, V. Kelly, M. Maredia, J. Stepanek. 1998. Can The Momentum be Sustained? An Economic Analysis of the Ministry of Agriculture/Sasakawa Global 2000's Experiment with Improved Cereals Technology in Ethiopia. A joint research activity of Grain Marketing Research Project/Michigan State University, Sasakawa Global 2000, Ministry of Agriculture Department of Extension and Cooperatives, and Ethiopian Agricultural Research Organization.
④Tolemariam, A., M. Jaleta, D. Hodson, et al. 2019. Rust Resistant Wheat Varieties in Ethiopia from 2009/10 to 2013/14. Socioeconomics working paper 12, CIMMYT.
⑤Hodson, D. P., M. Jaleta, K. Tesfaye, et al. 2020. Ethiopia's transforming wheat landscape: tracking variety use through DNA fingerprinting. Scientific reports, 10(1): 1-13.

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