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青果のブランド管理にも強み  日本食農連携機構、豪州ビクトリア州視察  NNAオーストラリア

2023.04.11

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青果のブランド管理にも強み  日本食農連携機構、豪州ビクトリア州視察  NNAオーストラリアの写真

 日本のアグリビジネスの発展を目指す日本食農連携機構(一般社団法人)が3月中旬に、オーストラリア南東部、メルボルンのあるビクトリア(VIC)州の農業団体や生産者を訪問した。オーストラリアの農産物の生産や流通の体制、ブランド管理の手法を視察し、その強みを探ることが目的だ。

 参加企業は畜産や青果、水生植物といった農産物生産分野から、和菓子などの食品分野、農業人材育成分野まで多岐にわたる。彼らはオーストラリア農業界の現場をどう見たのか。NNAオーストラリア発行の農業専門誌ウェルスが同行取材した。(写真:野菜の品質について聴く視察団=メルボルン・マーケット)

 日本食農連携機構は、日本の約170社の農業・食品会社を会員に持つ。食品加工業や外食産業などの「食」と、農業生産者や営農組織の「農」を結びつけ、新規事業やビジネス拡大を支援する組織だ。

 2年前の米国に続く今回のオーストラリア視察に参加したのは、露地・施設野菜のさかうえ(鹿児島県志布志市)◇コンニャクのグリンリーフ(群馬県昭和村)◇水生植物の杜若園芸(京都府城陽市)◇養豚のセブンフーズ(熊本県菊池市)◇九条ネギのこと京都(京都市)◇栗・和菓子の恵那川上屋(岐阜県恵那市)◇青果と農業人材育成のトップリバー(長野県御代田町)ーの7社。

 ほかに農業経営学を専門とする納口るり子筑波大学名誉教授も同行した。現地農業企業の視察をコーディネートしたのは、ウェルスの特集「オーストラリアで始める農業ビジネス」の著者、今林丈二氏だ。

 視察団を率いた増田陸奥夫理事長は、視察の目的について「農業生産や流通における新たなビジネスモデルのヒントを探るため」とした。日本は今後、人口減少により営農環境に変化が生じるという前提のもと、従来の慣行の継続だけでは生き残れないという危機感が背景という。同理事長はまた「日本の農業の強化にはその強みを磨くために海外の強みやベストプラクティス(最良事例)を導入することが重要」と指摘した。

ブランド管理手法に注目


 活発な議論がなされた訪問先は、リンゴと西洋ナシの業界団体オーストラリア・アップル&ペアー(APAL)だ。

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(リンゴのブランド管理を説明するAPALのホークCOO=中央奥)


 同団体は1973年に西オーストラリア州で開発された品種「クリスプピンク」など、3種のリンゴで構成される「ピンクレディー」というブランドを管理する組織。アンドリュー・ホーク最高執行責任者(COO)によるとピンクレディーは世界中で生産・流通し、APALがすべての業者に対しライセンスを発行しフィー収入を得ている。APALがIP(知的財産)管理とマーケティングに特化し、生産者と輸出業者はそれぞれ異なった立場で連携するという業界構造だ。

 今回は特に品種とブランドを分離して管理する手法が注目を集め、ある参加者は「品種ではなくブランドを管理することで、品種のトレンドに左右されない販売体制が構築できる」と話した。一方で中国を念頭に、ブランド盗用防止のため巨額の資金が投入されていることには共感する参加者が多かった。

 ブランドの浸透手段について、同団体は広告宣伝に年間5000万豪㌦(1豪㌦=約90円)を投入しているという。非営利団体のAPALは、手数料収入の70%を世界市場でのアクセス拡大に充て、20%をブランド保護、10%を品質管理に充てている。

 一方、APALによるとピンクレディーは日本でも若者を中心に需要が拡大中という。現在は長野県で約50軒の生産者が栽培しているが、人気の上昇に伴い青森県でも生産が始まった。APALは、北半球全体で生産量が足りないとし、日本での拡大で供給不足の東南アジアや湾岸諸国への輸出増加を期待しているという。

 オーストラリア市場のリンゴの種類別シェアはピンクレディーがトップの約40%を握る。また2020年と21年の売上高の比較は0.3%減でほぼ変わらない。主要5種類の売上高の変動は、ロイヤルガーラとグラニースミスが順に14%と8.6%伸ばしたものの、レッドデリシャスは26.6%減と大きく減少した。フジも6.8%減だった。

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新設備で生産性2倍に


 視察団はまた、全国2400㌶の農場(自社保有800㌶)でリンゴや核果、ブドウ、かんきつ類を生産する青果大手モンタギュー(Montague)も視察した。年間1億8000万豪㌦を売り上げる同社は、2年前に6600万豪㌦を投じ加工設備を更新。50レーンを備え、全国で生産されるリンゴを通年で処理する加工場では、生産性や生産コストに関する質問が相次いだ。同社では最新設備の導入により、従業員の生産性は2倍に向上したという。

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(全国のリンゴを処理するモンタギューの施設)


 日豪の生産方法の比較や消費者の嗜好の違いも議論した。オーストラリアの青果生産会社20社が加盟し、取扱量で国内の約60%を占める業界団体オーストラリア・フレッシュ・プロデュース・アライアンス(AFPA)のマクレランドCEOは「日本産果実の品質は高い」とあらためて指摘。一方で「オーストラリアの消費者は日本産果実の質の高さを知らない」と述べ、「日本の果実の輸出拡大には認知度を高める消費者教育がカギ」との見方を示した。

 家族経営で現在3代目となるスコット・モンタギューCEOとは、後継者をはじめとする若年層の育成についても議題となった。農業界における人材育成や事業継承の難しさは世界共通のようだ。

高い青果の品質


 VIC州最大の青果・花き市場で、唯一の卸売市場でもあるメルボルン・マーケットでは、オーストラリアで流通する青果の品質の高さが注目を集めた。参加者から「米国産よりも高品質で日本産とも遜色ない」との声も出た。他方、価格は高水準で日本にとって仕入れ先の多様化にはつながりにくいようだ。

 同マーケットのワイチェロCOOは、「オーストラリアの青果は現在労働力不足による人件費高騰の影響が大きく、卸値は年間18%上昇した」と述べた。

 メルボルン・マーケットの年間取扱額は25億豪㌦で、うち輸出分は500万豪㌦。輸出先としてはマレーシアの存在感が大きく、現在はインドが拡大中という。また、今後5年間で敷地の拡大を計画しており、専用施設を設置することで輸出を後押しするとした。

 このほか、市場の収益源が取扱高に応じた手数料収入ではなく、生産者側に対する区画の賃貸によることも、安定した収入をもたらすと参加者は評価。一方で「1区画当たり年間12万豪㌦の賃貸額が、最終的に卸価格の引き上げにつながる」との指摘や、「生産者と卸業者の決済は市場が提供するプラットフォームを経由することから、膨大な取引情報が潜在的なポテンシャルを持つ」との指摘もあった。

 納口教授は「オーストラリアの農業形態は、農場の規模の大きさに目が向きがちだが、斬新なブランド管理手法など、いわゆる『ソフトインフラ』の先進性にも注目したい」と述べた。

(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 3月17日号掲載)

【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。

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