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広がったキャッシュ・フォー・ワーク  被支援者の主体性強化   連載「アフリカにおける農の現在(いま)」第6回

2020.12.10

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広がったキャッシュ・フォー・ワーク  被支援者の主体性強化   連載「アフリカにおける農の現在(いま)」第6回の写真

 連載の前回(第5回)はアフリカの国々の購買力の向上によって、食料援助の流入が減少していることを明らかにした。しかし食料援助の減少にはもう一つの要因がある。それは国際的な動向に沿った支援スタイルの変化である。

 食料援助は、第二次世界大戦後の世界規模での食料不足の解決と、米国の余剰穀物の解消のために始められた。しかし対象地域全体に配布される援助食料は、あまり困窮していない人びとも受け取れるため、本当に苦しんでいる人の手に十分に渡らない可能性がある。

 援助依存への懸念もあり、1980年代に先進国が採った「小さな政府」の方針に沿った財政規模の縮小、援助の額の抑制とプロジェクトの小規模化に伴って、生計へのショックに脆弱な世帯のみを支援する「セーフティーネット」という概念が提起される。

 これによって活発化したのが、フード・フォー・ワーク(Food-for-Work、FFW) という取り組みである。これは植林や土壌保全活動、道路インフラの建設といった労働(ワーク)の対価として、食料(フード)を受け取れるという仕組みで、援助依存の防止が期待できる。(写真上:溝を掘り表土流亡を防ぐワークの様子。2020年2月、エチオピア中部オロミア州、田代啓撮影)

 さらに、労働が課されていることから、本当に食料支援を必要としている人以外の参加を抑えられるという利点を持つ。

 労働そのものも環境にプラスの効果を与えるよう設計されており、例えば1972年の悪天候への対応として実施されたインド・マハラシュトラ州の大規模なフード・フォー・ワークは、飢饉を防止したとして高く評価された。

 しかし1990年代から新たに議論されるようになったのが、食料と現金のどちらが労働の対価として適切か、という問題である。これは4に述べたように、食料安全保障において、食料供給量だけでなく食料への経済的アクセスを重視する動きとも関連している。

 米国を中心とする自国の農業の保護を優先した大量の援助食料の流入は、食料市場において国内産の食料との競合を引き起こし、食料価格を下げ、農家の生産インセンティブを弱めてしまう。人びとは受け取る援助食料を選べないため、その柔軟性のなさも批判された。

 そこから「キャッシュ・フォー・ワーク」 (Cash-for-Work、CFW)が強く支持されるようになった。これは、フード・フォー・ワークと同様の労働の対価として食料(フード)でなく現金(キャッシュ)が支給されるというもので、援助国の都合ではなく、支援を受ける側の権利がより重視されるようになったことを反映している。

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(写真:フード/キャッシュ・フォー・ワークで建設された道路。2019年10月、エチオピア中部オロミア州、田代啓撮影)

 現金受給により購買力が向上し、国内の食料生産と市場取引の活性化が見込めるとともに、現金を受給した人には選択肢が与えられ、より主体性が強められる。すなわち支援を受ける人びとが、援助食料を受け取る一方の受動的な存在ではなく、現金受給を利用して自らの生活を改善しようと工夫する能動的存在としてとらえられるように変わってきている。

 現在アフリカの23の国々でキャッシュ・フォー・ワークについても政策プログラムが行われており、また2つの国ではキャッシュ・フォー・ワークとフード・フォー・ワークが組み合わされている。

 国連の世界食糧計画(WFP)はアフリカの24の国々で依然としてフード・フォー・ワークを実施しているが、以前のように支給食料を援助国から出荷するのではなく、現地で調達する動きが活発化している。

 特に最近では、小規模農家からの購入が重視されるようになってきている。こうした支援の多くは、労働による農業生産性や市場アクセスの向上と、支給される食料もしくは現金による生計向上、資産創設を狙いとしている。

 このシステムが生産から消費までの国内の流れの中にうまく組み込まれ、機能するならば、支援を受ける人びとだけでなく、地域、国レベルで発展が促され、アフリカが援助や支援の受け手というイメージから脱却する日は遠くないだろう。

 ここまでの3回(連載第4回~第6回)でアフリカの食料安全保障と食料支援の現状を見てきた。次回からは「農家と市場とのつながり方」の変化に注目し、まずは契約栽培と高付加価値農業について見ていくこととしたい。

 田代 啓(たしろ・けい)京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻

 高橋 基樹(たかはし・もとき)京都大学教授、神戸大学名誉教授。京都大学アフリカ地域研究資料センター長。元国際開発学会会長。専門はアフリカ経済開発研究

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