米粉代替作戦 小視曽四郎 農政ジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」
2023.04.24

コメがついに麺にも抜かれた、と総務省調査(2人以上家庭、平均世帯人員2.91人)が伝えていた。2022年の食品支出額がコメは1万円台に転落し(1万9825円)、パン(3万2497円)、麺類(2万112円)の後塵を拝することに。22年は輸入小麦高騰でパンなどが値上げラッシュ。コメは安かったのに、消費者の小麦志向の強さが浮き彫りになった。
政府はこれに対し、水田の畑地化による国産麦の振興にテコ入れすることを決めたが、他方、世界的な小麦の調達リスクの高まりや輸入依存を心配する世論を受け、ならばと「米粉」代替作戦を始める。(写真はイメージ)
米粉は「200人に1人はいる」とされる小麦アレルギーやグルテンフリーが必要な人向けに、従来細々とはあった。15年3月策定の基本計画では、25年の米粉用米生産目標は10万㌧。が、実態は遠く及ばず。米粉の需要開拓やコストを下げる製造設備、品種の研究など、さまざまな面で取り組みが不十分だった。
ところがコロナ禍や気候変動、ロシアのウクライナ侵攻、円安、中国の爆買いで国際的な小麦情勢は激変。「まさに世界的な食料の奪い合い」(政府関係者)の構図が鮮明に。さすがに国内需要の85%、年間500万㌧近くを輸入に依存する現実に、不安を訴える世論が高まった。
これには国内実需者も敏感に反応する。一定割合を徐々に国産麦へ転換する動きが顕著に。国内調達できる米粉を麦の代替にする業者も出てきた。農林水産省調べで22年度の米粉用米需要量は、1年前の予想より2000㌧上振れし4万5000㌧に。23年は過去最高の4万8000㌧を予測。製粉大手によると10%以上、既に米粉の出荷が増えている。決め手は米粉と小麦粉の価格差の縮小だった。
専門筋によると、国内流通する小麦の原料価格はキロ60円、製粉コストが同50円で工場渡し価格は合計110円。これに対し米粉は原料がキロ50円で、製粉コストは同70円から340円。業者によって設備に差があるためで、工場渡し価格は同120円から390円。現状は「価格的には双方、拮抗状態」にあるという。結果、実需側も米粉をかつてなく使いやすい。
政府はこれを機に、米粉専用品種の実証栽培や製粉施設導入への補助、米粉普及拡大に補正予算140億円を当て、新年度予算で専用品種栽培農家に10㌃9万円の助成を決めた。水田の畑地化を懸念する声もある中、「日本にあるものを使って日本で生産していく」とは野村哲郎農相。高温多湿で連作障害もなく、日本人の食料安全保障に最も頼りになるコメを活用したいとの本音をのぞかせた。
30年には米粉用米需要を今の3倍、13万㌧にするのが目標だが、「できれば米粉で国民に一大ムーブメントを起こし、輸入麦の1割でも2割でも代替できたら」との業界内の声もある。小麦に奪われた情熱を、米粉は取り戻せるのか。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年4月10日号掲載)
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