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高付加価値野菜の輸出が拡大  豆類や半加工食品、欧州・アジアへ  連載「アフリカにおける農の現在(いま)」第7回

2021.01.21

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高付加価値野菜の輸出が拡大  豆類や半加工食品、欧州・アジアへ  連載「アフリカにおける農の現在(いま)」第7回の写真

 連載の第2回で、アフリカの農作物輸出について概観し、コーヒーやカカオなどの従来の輸出産品と比較して、野菜や果物がより急速に増加していることに触れた。アフリカの輸出全体の規模が小さいため、世界全体で見るとアフリカの野菜輸出の割合は限定的であるものの、徐々にそのシェアを拡大している。

 今回からアフリカの農村がグローバルな野菜取引にいかに関わり、農家がどのように対応しているかをみていく。

(写真上:契約下で栽培するサヤインゲンの収穫の様子。衛生面から帽子やスカーフで頭を覆い、収穫物を専用の袋に入れることを指導される。ケニア・ナクル県、2019年7月8日、久保田ちひろ撮影)

 アフリカで生産された野菜はどこに輸出されているか。地域別にみると35%が欧州、19%が東アジアへ輸出されており、20%はアフリカ域内となっている。

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(図1:データは世界銀行によるWorld Integrated Trade Solution、久保田ちひろ作成=以下同

 野菜や果物を輸出するには、残留農薬などの食品安全基準をクリアし、生産から販売までの経路をたどることができるトレーサビリティ(追跡可能性)が担保されていることが重要になる。

 特に欧州ではそれが厳格な基準となっており、欧州の小売店のほとんどが「グローバルG.A.P.」(Good Agricultural Practice=適正農業規範)という基準を満たさなければ販売することができない。

 グローバルG.A.P.とは食品の安全基準とともに、生産時に環境負荷が低い農薬や肥料を使用しているか、生産に携わる人びとの人権や生物多様性に配慮しているかなど、200以上の基準を満たしていることを保証する第三者認証制度である。

半加工野菜で躍進するケニア


 先進国が設定するこれらの厳しい輸出基準に直面しながらも、アフリカの国々は野菜の輸出を増大させている。ケニアの野菜の輸出額と輸出量をみると、特に2000年代に入って以降、輸出量・輸出額ともに大きく伸びている。

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(図2:データは国連食糧農業統計)

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(図3:データはケニア農業省園芸作物局のレポート)

 ケニアの野菜輸出の49%を占めるのは「ミックスベジタブル」と呼ばれる豆類やニンジンを細かく切って冷凍したものである。サヤインゲン(Fine Beans)やサヤエンドウ(Snow Peas)などの豆類も、輸出の大きな割合を占めている。

 「ミックスベジタブル」はすぐに料理に使えるようにカットし、冷凍した半加工品であり、サヤインゲンは上下をカットし、パック詰め包装されている。どちらも収穫後に手を加えた付加価値の高い商品であり、それらがケニアの輸出野菜の伸びを支えている。

 ケニアの農業に適した高地では冷涼な気候が年間を通じて続くため、欧州での生産が「オフシーズン」となる時季も含め、通年で野菜を輸出することができる。このような高付加価値の野菜が、欧州市場で競争優位を持つのである。

 2001年時点でケニアの野菜や果物の輸出の71%は、6社の輸出業者に集中していた。高付加価値野菜の輸出拡大には、こうしたケニアの大手輸出業者がコールドチェーン(低温物流体系)を確立し、加工設備へ投資したことが大きく寄与している。

 ケニア政府は農業省に「園芸作物局(Horticultural Crop Directorate)」を設け、園芸作物の栽培振興に取り組んでいる。輸出時の植物検疫体制を確立するなど、園芸作物全般の輸出増加に国を挙げて取り組んでいることも、重要な背景となっている。

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(写真:グローバルG.A.P.認証を受けサヤインゲンを栽培する大農場。ケニア・キリニャガ県、2019年3月19日、久保田ちひろ撮影)

農家と国外市場結ぶ契約農業


 ケニアでは企業はどのように高い品質を保証された農作物を確保しているのだろうか?

 一般的に農作物の取引はスポット市場で行われている。中間業者が農村を回り、農家と直接交渉によって農作物を買い付け、市場に卸す取引である。この方法では先進国はじめ域外への輸出基準に見合う農作物を確保するのは困難である。

 多額の投資をした輸出企業が利益を得るためには、大量の高付加価値野菜を輸出しなければならない。そこで注目されるのは、企業と農家が直接契約を締結して栽培を行う「契約農業」である。

 契約農業はアフリカの農家と国外市場を結ぶ制度であり、アフリカの多くの国で広がっている。次回は契約農業が重要な役割を占めているケニアを事例として取り上げ、農村による契約農業の取り組みを見ていこう。


 久保田 ちひろ(くぼた・ちひろ)京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻

 高橋 基樹(たかはし・もとき)京都大学教授、神戸大学名誉教授。京都大学アフリカ地域研究資料センター長。元国際開発学会会長。専門はアフリカ経済開発研究


 連載「アフリカにおける農の現在(いま)」では、アフリカの農業と食の現状を、京都大学の高橋基樹教授が若い研究者とともに報告します。

 第1回:希望の大陸? 人口増加と世界
 第2回:野菜・果実が主役に 農産物輸出の拡大と変貌
 第3回:穀物生産は立ち上がるか 肥料増で生産性上向く
 第4回:飢餓の大地の今 食料安全保障の動向
 第5回:購買力向上で食料援助は減少 国連世界食糧計画にノーベル平和賞
 第6回:広がったキャッシュ・フォー・ワーク 被支援者の主体性強化
 第8回:小規模農家に利益もたらす? 広がる契約農業
 第9回:受け入れられる契約農業 リスク回避策として選択
 第10回:高収量品種の導入で成果 エチオピア、種保存では課題
 第11回:食文化への適合も背景に 新作物ライコムギの受け入れ

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