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3色イチゴ、アジア・世界へ  奈良いちごラボ、こだわりのブランド  NNA

2023.04.18

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3色イチゴ、アジア・世界へ  奈良いちごラボ、こだわりのブランド  NNAの写真

 世界的に人気がある日本産フルーツの中でも、特に引き合いの強いイチゴ。海外では九州産や栃木産の知名度が高いが、日本から輸出されるイチゴの5割近くは、近畿圏から出荷されている。関西地方の代表的な産地である奈良県で、一般的な赤いイチゴのほか、希少価値の高いピンク、白を加えた3色のイチゴをそろえアジア、米国に向けて出荷を伸ばす生産者グループ「奈良いちごラボ」を取材した。

 大阪税関によると、2022年に日本全国から輸出されたイチゴは前年比23%増の2183㌧。そのうち近畿圏(大阪、京都、兵庫、滋賀、奈良、和歌山の2府4県)は1075㌧49%を占めた。九州圏が26%、首都圏が25%でこれに続く。

 中でも奈良は日本の西側最大の消費市場である大阪に隣接した、歴史的なイチゴの特産地だ。戦後の高度経済成長期には全国トップ3の収穫量を誇り、今では当然となったクリスマスケーキのトッピング用イチゴを初めて開発したことでも知られる。

 農家の高齢化や国内市場の縮小とともに栽培面積が減り、21年の収穫量は2300㌧余りで全国16位にとどまるものの、近年は「古都華(ことか)」や「あすかルビー」をはじめとする人気の固有品種が生まれ、再び注目を浴びている。

 奈良いちごラボは16年、桜井市、五條市、葛城市などに農場を持つ5人の生産者が立ち上げた。赤色の古都華に加え、ピンク色の「淡雪」、白色の「真珠姫」「パールホワイト」の4種をセットにして商品化するのが強みだ。

 真珠姫とパールホワイトは育種・開発担当の前田光樹さんが、伝統的に品質が劣るといわれてきた白イチゴを大きさ、味ともに赤イチゴに匹敵する品種とする改良に成功した。「県内の産直市場では当初、先入観から怪訝な目もあった」(前田さん)。だが、訪日観光の外国人が斬新さに引かれて手に取り始めたのをきっかけに海外で人気に火が付き、日本でも全国区で知名度を上げた。(写真:古都華の状態を見る前田さん=2月、奈良県、NNA撮影)

誰もやっていないことを


 奈良いちごラボは海外市場開拓に主眼を置き、「誰もやっていないこと」にこだわってきた。日本のイチゴを最高級品として求める海外の消費者を念頭に「とにかく目立っていこう」と、梱包材に食欲減退色とされる青を使うほか、ピンクやゴールドの化粧箱を採用。3色のイチゴが詰まった宝石箱のようにそのまま食卓に置ける「特別感」が中華圏を中心に好反応を得て、注文が急増した。

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(白、ピンク色の実はとりわけ、食品包装材には珍しい青にも映える=2月、NNA撮影)


 5人が運営する合計栽培面積は23年までに、ラボを設立した当初の約3倍の3万5000平方㍍に広がり、売上高は2倍になった。11月から翌年5月までのシーズンを通した生産量は15㌧程度で、その7割を海外に輸出する。行き先は香港と台湾が最も多く、関西国際空港からの空輸により、朝摘みイチゴが翌日午前には現地の百貨店などに並ぶ流れだ。

 価格は1パックで40008000円ほど、大きめの化粧箱に入った36粒入りでは、最も旬の時期で10万円相当の卸値がつくこともある。潜在購買力の大きい高所得層にアピールするため、香港では世界的な高級ブランドの「ルイ・ヴィトン」と提携し、同店の来店者に試食してもらうイベントも行った。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)のタイ、ベトナム、シンガポールなどにも出荷先を広げる一方で、2年前からは米国にも本格的に販路を求めた。アジアで日本産イチゴ同士の競争が激化してきたためだ。

 今はラスベガスやロサンゼルス、マイアミなど主要都市でホテル、高級スーパー向けの出荷が始まっている。米国は品質や鮮度への要求がアジアよりも厳しく、半日を超える長時間輸送でも損傷しないよう、梱包材を1粒ずつにエアクッションがあるタイプに変更した。小売価格が1パック90㌦(約1万2000円)の高級品となるが、バイヤーから「これはパーフェクトだ」と追加発注を告げられた。次は、南米や中東にも販売先を広げたいという。

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日本がトップで居続けるために


 果敢に戦略を打ち続ける背景には、将来への危機感もある。ブドウやリンゴなどに見られるブランド果樹品種の国外流出はイチゴにも及んでおり、中国や韓国では日本産を偽った箱に入った類似品種が出回るようになった。

 日本政府は流出を止めるための法改正を検討するものの、監視の目をかいくぐった密輸が絶えない上、海外での品種登録も難しく、完全に防ぐのは困難だ。

 日本のイチゴと模倣品種の品質の差はまだ大きいが、他の果樹の例を見れば、あっという間に市場が席巻される恐れもある。前田さんは「日本のイチゴが世界のトップランナーで居続けるためには、各地の生産者が強い武器で外に出ていって消費者の信頼を勝ち取り、市場を獲得していかなければならない」と力を込める。日本の農業が直面する収益率の低さも課題だ。奈良いちごラボは「日本ブランド」を武器に、稼げる農業を追求しながら挑戦を続ける方針だ。(NNA 齋藤眞美)

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