野菜・果実が主役に 農産物輸出の拡大と変貌 連載「アフリカにおける農の現在(いま)」第2回
2020.07.30
ただ、鉱産物を輸出しない国でも高い成長がみられた。そこで一役買ったのが農業である。2000年から2017年までのアフリカ農業部門の平均成長率は年4.3%である。同じ時期の製造業部門の平均成長率は3.2%で、農業の方が約1.1ポイント高いことになる。高度成長への貢献は製造業より農業の方が大きい。
このように農業の成長が製造業を長い間上回るということは、工業化を中心に発展を遂げてきた現在の先進国や東アジア諸国の歴史を振り返ってもあまり例がない。
アフリカは高度成長する一方で、工業化が停滞し、その役割が相対的に弱まっていくという、先進国とはまた別の意味の「脱工業化」に陥っているとも言える。
農業の成長の主役の一つが農産物輸出の拡大である。下の図1、図2(データは国連食糧農業機関(FAO)、以下同)を見てほしい。これはアフリカの植民地時代からの代表的な輸出農産物であるカカオとコーヒーの輸出額の1990年からの推移について見たものである。
(図1:アフリカからのカカオ輸出額)
(図2:アフリカからのコーヒー輸出額)
確かにカカオもコーヒーも、21世紀になってから輸出額が急増している。ただ、2010年代にはいって、両方とも頭打ちとなっている。
もう一つ重要なことは、このように輸出額が増えている一方で、カカオやコーヒーの輸出量(トン数)はそれほど伸びていないことである。下の図3に見られるように、カカオは少しずつ伸びているが、コーヒーの輸出量は1990年代より下がって、21世紀になってからは横ばいとなっている。
(図3:アフリカからのカカオ輸出量)
(図4:アフリカからのコーヒー輸出量)
ではなぜ、21世紀の最初の10年間の輸出額はこれほど伸びたのか。それは、両作物の世界市場における価格がより急激に上昇したからである。
その背景には、中国をはじめとする新興諸国でカカオやコーヒーの需要が増え、それまでの先進国からの需要と競合するようになったことがある。
カカオを原料とするチョコレートで作った菓子やケーキ、コーヒーを味わう人口が、富裕化によって中国等で増加したことがその需要の拡大につながったとみられる。
(写真左:コーヒーの木、右は定期市で売られるコーヒーの生豆、いずれもエチオピアで、2016~17年撮影)
カカオやコーヒーなどの在来の輸出農産物とは異なり、2010年代の後半も順調に輸出額を伸ばしているのが、野菜や果実などの園芸作物(他に花き=生花などが含まれる)である。
(図5:アフリカからの野菜・果実輸出額)
図5のように、21世紀の初めから2017年まで野菜と果実の輸出合計額はうなぎ上りである。コーヒー、カカオの輸出をあっという間に抜き去り、今やアフリカの農産物輸出を牽引する品目となっている。
園芸作物、特に野菜などの輸出拡大は、アフリカの歴史上かつてない新しい現象である。これを可能にしたのは、国際的な輸送技術の発展だ。野菜、生花、果実などを遠距離で運ぶためには、一定の低温を保つコールドチェーンを確立することが必要である。
これに航空機による貨物輸送力の向上を組み合わせることで、アフリカの農村から、ヨーロッパや中東・アジアの国々に新鮮な野菜などを送ることが可能となった。
さらに、野菜や果実は、輸出以上に国内向けの生産が増えており、アフリカの農を変えつつある。
次回(第3回)では、アフリカの農の新しい変化のさらに別の側面について詳しく報告する。
田代 啓(たしろ・けい)京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻
高橋 基樹(たかはし・もとき)京都大学教授、神戸大学名誉教授。京都大学アフリカ地域研究資料センター長。元国際開発学会会長。専門はアフリカ経済開発研究
文中の2枚の写真撮影は下山花(しもやま・はな)京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻
連載「アフリカにおける農の現在(いま)」は、アフリカの農業と食の現状を、京都大学の高橋基樹教授が若い研究者とともに報告する。
第1回:希望の大陸? 人口増加と世界
第3回:穀物生産は立ち上がるか 肥料増で生産性上向く
第4回:飢餓の大地の今 食料安全保障の動向
第5回:購買力向上で食料援助は減少 国連世界食糧計画にノーベル平和賞
第6回:広がったキャッシュ・フォー・ワーク 被支援者の主体性強化
第7回:高付加価値野菜の輸出が拡大 豆類や半加工品、欧州・アジアへ
第8回:小規模農家に利益もたらす? 広がる契約農業
第9回:受け入れられる契約農業 リスク回避策として選択
第10回:高収量品種の導入で成果 エチオピア、種保存では課題
第11回:食文化への適合も背景に 新作物ライコムギの受け入れ
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