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購買力向上で食料援助は減少  国連世界食糧計画にノーベル平和賞 連載「アフリカにおける農の現在(いま)」第5回

2020.11.12

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購買力向上で食料援助は減少  国連世界食糧計画にノーベル平和賞 連載「アフリカにおける農の現在(いま)」第5回の写真

 飢餓や食料不足に対してこれまでどのような対応がされてきたか。まず思い浮かべるのは食料援助であろう。2010年代前半までにアフリカではおしなべて食料安全保障の状況が改善される一方、紛争や感染症、天候不順による飢餓や食料不足に苦しんできた地域においては、依然として多く援助食料が配布されてきたことは紛れもない事実である(前回)。 (写真:レンズマメの配給の様子。家族の分を計って受け取る=エチオピア中部オロミア州、2019年11月1日、田代啓撮影)

 2020年10月に1960年から食料援助の中心的役割を担ってきた国連世界食糧計画(WFP)へのノーベル平和賞授与が決まった。WFPは2019年に過去最高の9700万人もの人びとに対して420万㌧の食料支援を実施している。

 今回の授賞は「飢餓と闘う努力と、紛争の影響を受けた地域の平和の状況改善への貢献、戦争や紛争の武器としての飢餓の利用を防ぐための努力」を評価した結果だ。

 WFPへの授賞には前回見たアフリカをはじめとする世界の食料安保状況の悪化に加え、新型コロナウイルスの大流行という厳しい状況下で、世界規模での連帯を呼びかけるという狙いもある。

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(写真:コムギの受給を待つ長い列=エチオピア中部オロミア州、2019年11月1日、田代啓撮影)

 アフリカへの食料援助は、これまでどのように展開されてきたのだろうか。食料援助は、第二次世界大戦後の米国を中心とした先進国農業生産の増大によって生じた余剰食料を食料不足で苦しむ国々への援助利用することで解消しようという動き端を発している。

 1974年の国連世界食料会議では、食料安全保障への取り組みとして、ドナー国(援助供与国)は途上国に対して年1000万㌧の食料援助を行うことが推奨された。

 そして、84~85年飢餓に対する支援を促すための「バンド・エイド」と「ライブ・エイド」の開催、また楽曲We are the Worldの発表が、食料援助への人びと関心を集めるのに大きく役立った。

 これら取り組みのきっかけとなった84~85年のエチオピアの大飢饉では、食料供給の26%以上を占める約200万㌧もの援助食料が海外から輸送されたと報告されている。

 そして現在でも、依然として紛争や天候不順に苦しむ地域には、援助食料が配布されている。

 食料援助と聞くと、受け取る人びとが援助食料に依存してしまうのでは、と懸念する人もいるだろう。食料生産への意欲の減退、また穀物など食料価格の下落によ農業収入の減少、ひいては農業発展の停滞などの悪影響を及ぼす可能性も考えられる。

 それでは果たして実際の食料援助はどのように変化してきたのだろうか。

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(図1:アフリカの穀物援助量と穀物輸入に占める援助の割合=データは国連食糧農業統計、以下同)

 アフリカへの穀物援助量上の図1のように、1988年から2015年にかけて減少しいる。輸入全体に占める割合ではそれがさらに顕著に表れており、1988年には援助量が輸入量全体の40%近くを占めていたが、2015年には1%程度にまで大きく減少している。

 アフリカへの穀物援助量の減少は同時に、下の図2に示すような穀物輸入量(援助を除く)の急激な増加を意味している。この背景として、アフリカの国々による一次産品の輸出拡大による外貨の獲得が挙げられる。

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(図2:アフリカの穀物輸入量)

 これにより、アフリカは、全体として援助ではなく自力で他国から食料を購入する力を得たのである。国内生産の増加に加えて、この輸入の急増によって、アフリカのほとんどの国は需要を満たすのに十分な量の穀物を確保できている。

 ただし、国内に十分に穀物があるからといって、すべての人びとの食料が確保されるわけではない。アフリカの栄養不良者数が近年増加傾向にあるのは、前回見た通りである。

 この状況の一方で、食料援助が減り、商業的な穀物輸入量が増加したということは穀物の多くが市場で売られるようになったこと、つまり消費者が購入しなければならなくなったことを意味している。

 それはすなわち、各世帯・個人購買力がより求められるようになったということだ。例えば、アフリカ全体で農業生産は伸びているが、十分な食料や収入を入手できない零細農家も依然として存在し紛争や天候不順の有無とは関係なく彼らは慢性的に食料確保の困難な状況にある。

 このような問題に対してどのような支援や対策が行われているかについては、次回見ていくことにしたい。


 田代 啓(たしろ・けい)京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻。上の写真2枚を撮影、図2枚を作成

 高橋 基樹(たかはし・もとき)京都大学教授、神戸大学名誉教授。京都大学アフリカ地域研究資料センター長。元国際開発学会会長。専門はアフリカ経済開発研究


連載「アフリカにおける農の現在(いま)」では、アフリカの農業と食の現状を、京都大学の高橋基樹教授が若い研究者とともに報告します。

 第1回:希望の大陸? 人口増加と世界
 第2回:野菜・果実が主役に 農産物輸出の拡大と変貌
 第3回:穀物生産は立ち上がるか 肥料増で生産性上向く
 第4回:飢餓の大地の今 食料安全保障の動向
 第6回:広がったキャッシュ・フォー・ワーク 被支援者の主体性強化
 第7回:高付加価値野菜の輸出が拡大 豆類や半加工品、欧州・アジアへ
 第8回:小規模農家に利益もたらす? 広がる契約農業
 第9回:受け入れられる契約農業 リスク回避策として選択
 第10回:高収量品種の導入で成果 エチオピア、種保存では課題
 第11回:食文化への適合も背景に 新作物ライコムギの受け入れ

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