見続け、報じていかなければならない 福島を離れ、思う 山田昌邦 前共同通信福島支局長
2022.01.11
「福島に行ってくれないか」。上司から福島支局への転勤を打診されたのは2年半前。山形新聞社が主催する米沢市での講演会に招かれ、当時担当していた皇室をテーマに講師を務めた後、「せっかく米沢に来たのだから」と奮発して米沢牛のステーキにナイフを入れた途端、携帯電話が鳴った。「これから新幹線で通る所じゃないか。これも何かの縁か」。帰途の車窓の風景は、往路と違って見えた。
最大のミッションは「東日本大震災・東京電力福島第1原発事故10年」の福島を伝えること。今の福島はどうなっているのかと考えつつ、福島市内に居を移すと、当然ながら普通の街の、普通の生活が営まれていた。普通どころか、うまい魚、うまい米、うまいそば、うまい地酒があり、桃や梨、リンゴといった果物の豊富さは「フルーツ王国」を名乗るだけのことはある。何より車を30分も走らせるといくつも源泉掛け流しの温泉があり、思い立ってタオル1本持って出掛ければ極楽浄土だ。とても東京では得られない豊かな暮らしがある。
だが、沿岸部の原発周辺に足を運ぶと、厳しい現実が残る。空間放射線量が高く、避難指示が出ている「帰還困難区域」は、7町村にまたがる計337平方㌔㍍が指定され、境界には格子状のバリケードが張り巡らされる。あるじ不在となり、時の流れに任せて傷んでいく住宅や店舗の姿に、住民でなくても胸が苦しくなる。(写真:整備されたJR常磐線夜ノ森駅前のバリケードを挟んで帰還困難区域の住宅地が残る=2021年10月11日、筆者撮影)
30年とも40年ともいわれる第1原発の廃炉作業は緒に就いたばかりだ。そもそも廃炉の最終形を政府や東京電力は明らかにしていない。原発建設前の更地に戻す"原状回復"なのか、原子炉だけを撤去するのか。廃炉後、そこに人は住めるのか。原発周辺の中間貯蔵施設に埋められた除染土などの移送先も決まっていないのに、廃炉で生じる高レベル放射性廃棄物をどこに搬出するのかー。
今後、何十年にもわたり福島を見続け、報じていかなければならない。それは何世代にもわたる仕事にもなるかもしれない。
紹介してきた多くは被災地にありながら、前を向いてこの地で生きていこうとしている人たちだ。地元の人であっても、他の地域から移り住んだ人であっても、福島を愛し、福島の魅力を伝えたいという思いにあふれていて、取材をしていて心を動かされた。この場を借りて改めてお礼を申し上げたい。
昨年12月16日付の異動で東京の本社勤務(編集局次長)となりました。福島を離れましたが、福島の地を踏み、福島の人々と語らった者として、福島からの視点を忘れずに報道に臨んでいきたいと思います。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年1月3日号掲載)
山田昌邦さんの福島報告
・原発事故乗り越え自然栽培
・被災地に向き合う〝よそ者〟駅長
・被災の村から〝羊肉革命〟
・豪雪地帯の米と水が育む米焼酎
・〝安心〟発信の拠点、「浜の駅」
・風評払拭のけん引役に「福、笑い」
・「時間は等しく流れているのか」 2回目の「震災10年」を考える
・エゴマの力でふるさと再生 福島、浪江を拠点に
・移住者がつなぐ伝統工芸 いわきに遠野和紙の工房
・「人を呼び寄せる力」信じて 福島で五輪向けトルコギキョウ栽培
・会津桐の文化を橋渡し 新しい「げた」提案
・誠意込め果物届ける 農園支える元ビジネスウーマン
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