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エゴマの力でふるさと再生  福島、浪江を拠点に  山田昌邦 共同通信福島支局長

2021.06.07

エゴマの力でふるさと再生  福島、浪江を拠点に  山田昌邦 共同通信福島支局長の写真

 単身赴任生活に加え、新型コロナウイルスの感染拡大による巣ごもり状態も長引き、腹回りが気になってきた。中性脂肪の合成を抑えたり、代謝を促したりといった効果が期待できるというので、最近は「オメガ3脂肪酸」を多く含むエゴマ油入りドレッシングを使っている。

 福島市の石井絹江さん(69)が営む「石井農園」もエゴマの作付け時期を迎えている。エゴマは油だけではなく、ドレッシングやジャムなどに加工、葉も焼き肉を包む「エゴマの葉」として出荷している。「油の搾りかすも利用できて無駄がない」という。(写真:エゴマを加工した商品セット(送料込み5000円)を手にする石井絹江さん=5月6日、筆者撮影)

 石井さんは福島県東部の浪江町の事務職員として約40年間務め、定年まであと1年という2011年3月、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故が発生した。診療所の事務員だった石井さんは数日間、殺到する町民の対応に追われた後、放射線汚染による避難指示で町役場が移転した県中央部の二本松市に避難。翌年4月の退職後は、栄養バランスの悪い仮設住宅の被災者向けの弁当配達グループを立ち上げた。

 石井さんとエゴマとの関わりは町の産業振興課勤務だった1999年にさかのぼる。当時、農家の高齢化による遊休農地が増えていて、その活用が町の課題だった。そこで山間部の農家が自家用にほそぼそと作っていたエゴマが「認知症予防に効果がある」と聞き、1人が少しずつ栽培する「一畝歩(約100平方㍍)運動」を提案。老人クラブに声を掛けて栽培を始め、町長に直談判して搾油機を購入、エゴマ油を商品化した。

 見渡すと、地元のカボチャを練り込んだ「かぼちゃまんじゅう」など、身の周りには他にも自慢できるものがたくさんあった。食品を加工販売する保健所の許可を取得するための講習会を開催したり、地元の農産物を東京の直販所で販売したりと農家と消費者の橋渡しに奔走した。

 農地を求めて福島市に転居し、農産物の6次産業化を目指して加工所を備えた石井農園を15年に設立。エゴマのほか果物や野菜などを加工、かぼちゃまんじゅうも復活させた。除染が済んだ浪江町の畑を借り、安全性を確認する試験栽培を経て16年、エゴマ栽培を本格的に再開した。

 原動力は「42年間、給料を払ってくれた町民に恩返しを」という思いだ。最近は「日本一のエゴマを作りたい」という若者が浪江町に移住、石井さんは片道2時間ほどかけて福島市から通い、後継者を育てている。

 浪江町は震災から10年を経た現在も、避難指示が解除されたのは町面積の約2割にとどまる。石井さんのもともとの自宅がある町西部の津島地区は、今も立ち入りが制限される帰還困難区域だ。荒れていく家に心を痛めたが、やっと自宅周辺の除染が決まり、年内帰還への道が開けた。「福島と浪江、両方を拠点にエゴマを全国に広めたい」

(KyodoWeekly・政経週報 2021年5月24日号掲載)

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