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漁師さんが「かわいい」と気付いた日  中川めぐみ ウオー代表取締役  連載「グリーン&ブルー」

2023.04.17

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漁師さんが「かわいい」と気付いた日  中川めぐみ ウオー代表取締役  連載「グリーン&ブルー」の写真

 水産の世界は物理的な距離よりも、精神的な距離が遠い。水産業界以外の方と、こんな話をすることがあります。

 家の近くに漁港がある、または釣りやサーフィンが趣味で定期的に浜へ行く。そんな方は、思い返せば景色の一部に漁師さんを捉えているはずなのに、意外と話したことはないというケースがほとんどです。その理由として「なんとなく怖そう」「なんとなく近寄ってはいけない雰囲気がある」などを挙げます。そう、多くの理由は"なんとなく"。精神的な距離からきています。

 私も釣りを始めて各地の浜へ通い出した10年ほど前、漁師さんを見る機会は増えましたが、"なんとなく"の壁で近寄ることはありませんでした。しかし知人を介してある漁師さんと食事をする機会があったとき、そのイメージは崩壊したのです。

 最初は厳しい面持ちで口数も少なかった漁師さん。やっぱり怖いかもと思った私ですが、彼が獲ってきてくれた魚の料理を口にしたとき、あまりのおいしさに「うわ!めちゃくちゃおいしいです!」と話しかけました。すると厳しかった口元が一気に緩み、「そ、そうかぁ?」と恥ずかしそうにほほえんだのです。

 「かわいい! ツンデレという言葉があるけれど、その際たるものが漁師さんなんじゃないか!?」。私の漁師さんへのイメージが"怖い"から"かわいい"に一転した瞬間でした。

 そこから積極的に漁師さんに話しかけるようになって気付いたことは、「厳しい面持ちは、緊張からきていることが多い」「怒鳴るような話し方は、船上で素早く危険などを伝えるために短く大きな発声を意識した習慣」「実は繊細で優しい方が多い」などたくさんあります。

 勇気を出して一歩踏み出すと、こんなにも物理的・精神的な距離が近くなるのかと驚きました。

 さらに、各地でおもしろい活動をしていると、噂の漁師さんたちに会いに行くと、今度は彼ら・彼女らの、人として、ビジネスマンとしての魅力に衝撃を受けるようになりました。

 一般的には都会の大企業やITベンチャーがビジネス最前線とされますが、そこで働く方たちも驚くような、本質的で難易度が高く、そしてわくわくするチャレンジをし続ける人たちが、各地の浜にいたのです!

 私はそんな漁師さんたちにほれて、浜を巡っては、その情報を生活者や省庁へ届ける仕事をはじめました。漁師さんたちが持つ本当の魅力を知れば、ファンになったり、彼らと共創したい企業が現れたり...そんな未来が見えるのです。

 というわけで、私の連載では漁師さんをはじめ、水産に携わる魅力的な人々のご紹介をしていきます。これから、どうぞよろしくお願いします。

 
 中川 めぐみ 株式会社ウオー代表取締役。「釣り・漁業×地域活性」を軸に、日本各地で観光コンテンツの企画・PR等を行う。漁業ライターや、水産庁・環境省等の委員も務める。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年4月3日号掲載)

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