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会津桐の文化を橋渡し  新しい「げた」提案  山田昌邦 共同通信福島支局長

2021.10.18

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会津桐の文化を橋渡し  新しい「げた」提案  山田昌邦 共同通信福島支局長の写真

 桐と日本人の歴史は長い。聖人君子の治世に鳳凰が現れて桐の木に止まるという中国の神話から、菊紋に準じて桐の花と葉を組み合わせた桐紋が平安時代から天皇の紋章として使われ、豊臣秀吉ら武将も好んで使用。現在は日本政府の紋章として、パスポートや500円玉にも桐の図案があしらわれている。桐材も、げたやたんすから和楽器の箏(そう)、ひつぎや骨つぼを収める木箱に至るまで用途は幅広い。

 それにもかかわらず国内で生産される桐材は風前のともしびだ。農林水産省の統計によると、昨年、原木や製材、加工品として中国や米国などから輸入された桐材は9726立方㍍。これに対し国内生産は2%の200立方㍍にすぎない。

 厳しい状況にある国産桐材の60%以上を占めるのが福島県産だ。主な産地は三島町などの会津地方。会津藩会津松平家初代藩主、保科正之が推奨したことで江戸時代から栽培が盛んで、最盛期の昭和40~50年代、平成のバブル期は年間4500立方㍍前後を生産、相場も高く「原木を3本売って子どもを大学に出した」という話も残る。

 しかし和服離れなど生活様式の変化に伴い、たんすやげたの需要が減ったことに加え、安価な外国産の桐が大量に流入し、廃業する生産者が相次いだ。

 だが豪雪地帯で「子どもを育てるように」手間を掛けて栽培される「会津桐」はきめが細かくつやがあり、箏は柔らかい音を奏でるという。

 その会津桐を使って、一昨年から新しい形のげた「カラコロ」(上の写真は女性用の例=佐原さん提供)を提案しているのが、会津若松市の「佐原桐材履物店」3代目の佐原健司さん(61)だ。

 裏側を2枚の歯の代わりに、W形のアーチ状に加工、桐の持つ柔軟性が体重を受け止める。鼻緒は指の間が痛くなりにくく、緩みにくいイタリア製の人工皮革を選んだ。デザインの基は「猫のような躍動感」。ジーンズに合わせても違和感はない。県の検査機関によるテストの結果、300㌔以上の荷重に耐え、特許や意匠登録も取得した。

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(グラインダーで底の微妙なカーブを調整する佐原さん=7月29日、筆者撮影)


 試しに履かせてもらうと、丸みのあるアーチや底に貼られたゴムが衝撃を吸収し、自然と脚が前に出て行くようだ。桐の最大の特徴で非常に軽く、女性用だと片方約200㌘。鼻緒は20色から選べ、ネットからでも注文できるが、店頭なら外反母趾(ぼし)など足の状態から鼻緒の位置などを調整して作ってもらえ、購入した女性から「指の開放感が違う」との反響もあった。

 「生活様式は変わっても、桐を使う文化の橋渡しをしていくのが自分の役割」と佐原さん。会津桐に懸ける挑戦は続く。

(KyodoWeekly・政経週報 2021年10月4日号掲載)

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