幸福は口福から 安武郁子 食育実践ジャーナリスト 連載「口福の源」
2023.04.17
人間の最後まで残る欲の一つである「食欲」(※)。おいしさを味わう幸せ「口福」。人は、おいしく食べると幸せな気持ちになります。おいしく食べる時間の割合が多いほど生活の質も上がります。
おいしく食べると人が幸せな気持ちになるのは、脳の仕組みにあります。人は脳内にβエンドルフィンが出ると楽しく幸せな気持ちになります。そして、食事の時にβエンドルフィンが出るサイクルが確立されることで、「食べることが楽しみ」と思えるようになります。
このβエンドルフィンは究極の快楽物質ともいわれ、気持ちを落ち着けたり、苦痛をやわらげたり、免疫力をあげたり、安心感が得られる物質です。だから、嫌なことがあったり、気分が滅入った時でも、好きなものを食べると、いつの間にか元気になります。まさに口福の源です。
皆さんは日ごろどんな食べ方をしていますか? 忙しい日常の中で、食事の時間を真っ先に削ってはいないでしょうか。お口は食べ物の入り口ではありますが、第1の消化器官でもあります。「さっさと食べる」「とりあえず空腹を満たす」という時、多くの人がお口の機能を使わずに食べています。咀嚼はできているでしょうか。身体も使わないと衰えるように、お口も使わないと衰えてきます。そして、お口の衰えは、全身の衰えとなります。
私のミッションは人々の口福寿命延伸です。最期までお口からかんでおいしさを味わう幸せ(口福)を守るため、人々の口腔健康への意識向上に取り組んでいます。
「福」という漢字を右上から分解すると「一口田ネ(ひとくちだね)」と読めます。江戸時代、「一口の幸せに感謝し、よくかみしめて、味わって食べよう」と寺子屋の先生は繰り返し説いたそうです。元気も病気も口から入ってきます。一口食べて、幸福感を感じることもできれば、食中毒など一口で死に至る場合もあります。
そして、口には「入れる食(命)」と同時に「出す心(言葉)」があります。たった一言で、人を笑顔にすることもできれば、逆に傷づけることもあります。食べ物と同様に、言葉選びにも気を配ることが大切です。この連載を通して、読者の皆さんが口福になっていただけたら幸いです。
※米国の心理学者マズローの欲求5段階説「生理的欲求」より
安武 郁子(やすたけ・ゆうこ)食育実践ジャーナリスト。株式会社eatright japan 代表取締役。良食検定®主宰。歯科から食育、良食(良い食べ方)の普及に取り組む。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年4月3日号掲載)
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