原発事故乗り越え自然栽培 山田昌邦 共同通信福島支局長
2020.07.27
「あの事故の後、この土地から去って行った者はいたけど、入ってきたのはあんたぐらいだ」
福島県北部の伊達市で、農薬も肥料も使わない自然栽培の農園「フェルムナチュレール・コクブン」を営む国分喜行さん(47)は、営農を始めた9年前、周りの農家に言われた言葉を思い出し、日焼けした顔に笑みを浮かべた。
(写真:ラズベリーを収穫する国分さん)
隣の福島市でアンティーク雑貨店を自営するなどしていた国分さんが、化成肥料や農薬を使わない有機栽培による農業を志して伊達市内の耕作放棄地約1ヘクタールを購入、移住したのは2011年7月。東京電力福島第1原発事故の4カ月後だった。
同原発から放出された放射性物質は北西約60キロの伊達市にも到達。放射線量は避難が必要な数値ではないものの、平常時の約10~25倍となった。食の安全を考えて有機栽培を始めようとしているのに、作物が放射性物質に汚染されてしまっては元も子もなかった。
ただ、降り落ちた放射性物質の多くが、放射線を出す能力が半分になる期間「半減期」が約2年と短いものだったことが分かり、希望が持てた。
「5年間で影響はほとんどなくなるはず。この間に試行錯誤しながら土地に合った作物を探せばいい」
隣町の農園で農作業の基本を学ぶ傍ら、伸び放題だった竹や雑草を刈り、水田や畑に戻していった。独学で有機栽培の技術を研究し、翌12年に農園をオープン。直売店やスーパーに出荷する前には放射性物質検査を受けた。初年度からほぼ全ての作物で「不検出」の判定が続き、消費者の信頼を得ていった。
原発事故の風評被害を乗り越えた国分さんだったが、鶏ふんなどの有機肥料とはいえ、大量に田畑に投入することに「自然界ではありえない量だ」と疑問を感じていた。ちょうどそのころ、青森・弘前で無農薬、無肥料によるリンゴの自然栽培に成功した木村秋則さんの著作に出合い、「これだ」と飛び付いた。
施肥をやめ、抜き取った雑草や収穫後残った葉や茎を土にすき込んで、微生物の分解力で土を豊かにする―。収穫量は落ちたが「里山の自然を守りながら営む農業」という理想に近づくことができた。望外の結果もあった。「味は二の次」と思っていたが、収穫物は「味は濃いのにえぐみがない」。
さらに5年前、妻直子さんとの結婚も転機となった。作物の販売だけでは利益が薄いのが悩みだったが、直子さんのアイデアで敷地内に加工場を作り、大麦のパンケーキミックスやドライフルーツなど手作りの加工食品の販売も始めた。農水産物の直販サイトに登録すると、多くが「売り切れ」の状態に。
現在は新たに借りた農地を合わせた約2ヘクタールで米や野菜、果物約50種を生産、海外から農業体験の研修生も受け入れている。
(KyodoWeekly・政経週報 2020年7月13日号掲載)
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