移住者がつなぐ伝統工芸 いわきに遠野和紙の工房 山田昌邦 共同通信福島支局長
2021.07.19
生成り特有の素朴な色合いの手すき和紙が、映画「フラガール」の舞台で知られる福島県南東部のいわき市で生産されている。
遠野和紙。美濃や越前といった「日本三大和紙」ほど知名度はないが、400年以上の歴史を持つ福島の伝統工芸だ。阿武隈山地の山あいに位置する同市遠野町の集落で、最盛期の1887(明治20)年ごろには約600戸が農閑期の副業として和紙を生産していた。
しかし、洋紙の普及に加え、炭鉱が開発されたり、戦後に沿岸部に工業地帯ができたりして働き手が流れ、最後の職人が2010年に廃業した後はイベントなどの際に、ほそぼそと作られる程度だった。
その後継者として手を挙げたのが、過疎地域への移住促進を支援する国の施策「地域おこし協力隊」に応募した平山祐さん(39)、綾子さん(34)夫婦だ。
2人は綾子さんの実家が川崎市で営む建築機材の販売会社で働いていたが、祐さんが30歳の時に1型糖尿病を発症、それまでの働き方を見直す転機になった。
そんな中、母の出身地で祖母が暮らすいわき市が、協力隊として遠野和紙の担い手を募集しているのを知った。祐さんも、美術大で点描画を学んだ綾子さんももの作りに関心があり、田舎暮らしへのあこがれもあったことから、迷わず応募。約2カ月後の18年10月、夫婦で遠野に移り住んだ。
とはいっても紙すきは全くの素人。埼玉県小川町の職人に付いて基礎を学んだ後は、書物や動画投稿サイト「ユーチューブ」での独学だった。技術を磨き、現在は地域の小中学校の卒業証書の作成を任されるほどに。今年5月には元呉服店を改装して自宅、工房を兼ねた店舗「遠野紙子屋」をオープンさせた。(写真:店舗前で遠野和紙を持つ平山さん=6月18日、筆者撮影)
遠野和紙の復活は平山さん夫婦だけでは成し得なかった。「和紙作りは紙料作りが9割」と言うように、原料のコウゾを栽培し、刈り取り、皮をむいて乾燥、さらに黒皮をむいて煮沸、チリを手で取り除き、繊維を木づちでたたきほぐして、やっと紙すき前の紙料が出来上がる。紙料を国内外から購入する和紙の産地が大半の中、100%地元産のコウゾにこだわり、漂白剤も使わないのが遠野和紙の特徴だ。
最後の職人が廃業した後も、コウゾの栽培、紙料作りを続けてきたのが、約20人の地元ボランティアの人たちだ。メンバーの多くはサラリーマンを退職した60代以上。東京や仙台で勤務した後、地元に戻った瀬谷幸夫さん(73)も「地元のコウゾがなくなれば遠野和紙とはいえない」という思いで加わったという。
「最初から定住する覚悟で入ってきたのもあって地元の人に受け入れてもらった」と祐さん。学校などでの紙すきの体験授業にも力を入れている。「自分たちは次の世代に和紙作りを伝えるつなぎ役」。長い伝統を継ぐ仕事に気負いはない。
(KyodoWeekly・政経週報 2021年7月5日号掲載)
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