食べ物あれこれ(ヤ行~ワ行) 落語の森 紫紺亭圓夢
2021.11.15
「風流だなァ」を連発しながら、インチキ茶道に人々を誘い込むのが「茶の湯」。倅(せがれ)に家督を譲って根岸に隠居生活を始めた大店(おおだな)のご隠居「何か物足りない」と長屋の連中に怪しげな茶の湯の指導。小僧の定吉と「風流だなァ」と言いながら芋を練って灯し油を塗った名付けて利休まんじゅうを出すが...。10月7日81歳で死去した人間国宝・柳家小三治師のものが有名だが、立川談幸・志の輔・瀧川鯉昇師ら演者は多く、それぞれが笑える。
わさびの登場は「磯の鮑(あわび)」。与太郎さんにもて方指南をする師匠「【こんなに私は、お前のことを思ってる、磯の鮑の片思いだよ】と言いながら花魁(おいらん)の膝をつねってみろ」と教えるが...。噺はなしにもはやりすたりがあるらしく、このところ聴くようになった噺。この噺で2017年NHK新人コンクールで優勝した三遊亭歌太郎さん、真打昇進して現在は志う歌師。柳家一琴・三遊亭兼好・春風亭三朝・柳亭小痴楽の各師が演る。
羊羹(ようかん)は、「寝床」「だくだく」など多くの噺に登場、「腹ァ見透かされないように厚く切れ」「薄く切るもんだから、羊羹が一人で立ってらんなくて隣に寄っかかってる」などのフレーズが楽しい。「だくだく」を、ぜひ小三治師の8番弟子・三三師で聴いていただきたい。
「かぼちゃ屋」には、何とっ、ライスカレーが出てくる。「女房子があれば、なんで飯を食う?」と叔父さんに言われた与太さん「箸と茶碗だ」「箸と茶碗で食うのは当たり前じゃねェか」「いやァ、ライスカレーは匙(しゃじ)で食う」とアッパレな答え! これも小三治師の名演が懐かしい。柳家の一門が演る。
「二人旅」を昔、小さん・談志・小三治の3師で立体落語と称して演ったことがある。小さん師の芸歴50年の祝いの高座だったか。談志、小三治2人の表情が微妙で興味深かった。談志師のは、おばあさんにインパクトがある。「畑の葉を食べる」「ありゃ、煙草の葉だが、茹でりゃ食えるよ、茹でたばこ(たまご)と言って」とスゴイことを言う。一門のさん遊・小里ん・柳亭市馬といった腕っこきがのんびりと笑わせてくれる。
新作の人情噺として有名なのが、昭和の爆笑王・柳家金語楼先生作の「ラーメン屋」、先代古今亭今輔師が自信満々に演っていた。昭和40(1965)年のネタおろしで、筆者は中学生の頃にさんざん聴いた覚えがある。「どうです、いい噺でしょ!」という演り方がどうにも好きになれなかった。今、孫弟子の古今亭寿輔師・桂米助師が演っている。古典派の重鎮・五街道雲助師は、時代を江戸に移して「夜鷹(よたか)そば屋」のタイトルで演る。
焼きのりを恐る恐る食べるのが「家見舞い」、別に「肥いがめ」「祝いがめ」「新宅祝い」のタイトルも。、柳家さん喬・権太楼・入船亭扇遊師らがいい。さて引っ越し祝いに持って行った瓶の正体は!?
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年11月1日号掲載)
紫紺亭圓夢(しこんてい・えんむ)さんの「落語の森 食べ物あれこれ」は今回(ヤ行~ワ行)で一区切りです。
落語の森 食べ物あれこれ(ア行)
落語の森 食べ物あれこれ(カ行)
落語の森 食べ物あれこれ(サ行)
落語の森 食べ物あれこれ(タ行)
落語の森 食べ物あれこれ(ナ行)
落語の森 食べ物あれこれ(ハ行)
落語の森 食べ物あれこれ(マ行)
落語の森 食べ物あれこれ(ヤ行~ワ行)
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