街ごと楽しむ餃子 宇都宮で「後は何もいらない」 眉村孝 作家
2022.09.12
6月下旬の週末の夕方。宇都宮市に単身赴任中の先輩Zさんと合流すると早速、JR宇都宮駅西口にある餃子店「香蘭」ののれんをくぐった。注文したのは宇都宮餃子の基本である焼き餃子と水餃子(写真:筆者撮影)、そしてビールだ。
かつて北関東で3年ほど勤務した私は何度も宇都宮の餃子店を訪れた。その後、東京へ転勤してからも当時大学生の次女と宇都宮駅周辺で餃子店巡りをしたこともある。だがその後はご無沙汰。宇都宮で先輩と会うことを決めると「久しぶりに餃子を」とおねだりをしたのだ。
その日は、餃子とビールを楽しむのにはぴったりの日でもあった。6月というのに栃木県の最高気温は34度を超した。私はその日、日光の赤薙山をトレッキングしてたっぷりとカロリーを消費していた。昼食を抑え気味にして、腹ぺこだった。
注文から10分ほどで餃子がやってきた。まずは焼き餃子。皮はもちもち、は豚肉よりもキャベツなど野菜が多めでジューシー。ビールとともにあっという間に食べ終えてしまった。
次は水餃子。宇都宮の餃子店の特徴のひとつに、多くの店が焼き餃子とともに水餃子を「推している」ことがある。中には餃子はこの2種のみの店もある。薄味のスープに餃子が漂う。好みの量のしょうゆや酢、を加えスープごといただく。水餃子の方が皮のもちもち感や餃子の素材のうまさをじかに感じられるだろう。
食べながら「餃子は完全食」という、かつて宇都宮で耳にした言葉を思い出した。皮は炭水化物、餡は肉と多くの野菜が含み、栄養のバランスがよい。「餃子があれば、後はなにもいらない」などと先輩と話しつつ、焼き餃子を2皿、水餃子を1皿あっという間にたいらげた。
宇都宮に限らず餃子の名店は多くの街にある。高知の屋台「松ちゃん」、福岡の「博多餃子」など「この街を訪れたらあの餃子店」というお気に入りが私にもある。だが宇都宮で食べる餃子は、他の街での味わい方とは違う。「街ごと餃子を楽しめる」感じがするのだ。
宇都宮市では1990年、家計調査で餃子購入額が1位を続けていたことに市の職員が気づいたのを機に「餃子の街」の発信が始まった。専門店で構成する組織が食べ歩き地図を作ったり祭りを開いたりして、知名度を高めてきた。B級グルメによる街おこしの先駆者といえる。
宇都宮の店では、市民がニコニコと餃子を食す姿を目にする。市民の餃子好きが素地にあるため、B級グルメで盛り上げる街にありがちな「無理をしている感」が全くないのだ。この日、香蘭で調子づいたわれわれはワインと餃子を楽しむ店、肉汁餃子の店を巡り、最後に香蘭に戻りお土産用の冷凍餃子を買った。餃子とビールと先輩との昔話に心地よくなった私は、上野行き快速列車のグリーン席に身を沈めた。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年8月29日号掲載)
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