食べ物あれこれ(ア行) 落語の森 紫紺亭圓夢
2020.04.13
アイスクリームが出てくる珍しい噺といえば先代(八代目)桂文楽師の「かんしゃく」、ただただかんしゃくを起こす旦那の噺で師と柳家小三治師でしか聴いたことがない。
酒はさまざまな噺に登場するがポピュラーなところでは「替り目」。酔っ払いの亭主に困惑する女房の噺で寄席のスタンダード、演り手も多い。本来のサゲ「お銚子の替り目」まで演ることは少ない。
やはり文楽師に「夢の酒」という何とも粋な品のいい噺がある。「冷やにしとけば良かった」のサゲ、飲み手なら大いに共感できる。「親子酒」は、大好きな噺。
「替り目」の女房が買いに行かされるのがおでん。柳家小ゑん師自作の「ぐつぐつ」では主役として登場、「ぐつッ、ぐつッ」という音がクッションになって噺が展開していく。
唐茄子の安倍川餅は「唐茄子屋政談」に出てくる。三遊亭圓生師と古今亭志ん朝師の名演が浮かぶ、これぞ「江戸っ子」という、噺家さんなら誰もが演ってみたい気持ちのいい噺。「政談」とはいうもののお白洲のシーンはない。
甘納豆はこれも文楽師の「明鳥」、可愛い花魁と一夜を共にした堅物の若旦那ともてなかった源兵衛と太助の噺。艶っぽいこの噺を高校の落研時代に1年生で演った強者がいたがよく先生も黙って見ていたものだ!志ん朝師の若旦那や意外に立川談志師も良かった。
うどんは、先代(五代目)柳家小さん師とやはり先代(十代目)金原亭馬生師の「うどん屋」にトドメを刺す、冬の情景が浮かんだものだ。鮟鱇は先代(三代目)三遊亭金馬師の「居酒屋」に登場、今なら古今亭志ん橋師が楽しい。
この噺へのオマージュとして桂文枝師が作ったのが「ぼやき酒屋」、筆者は師に「演らせてください!」とお願いして演じさせてもらっている。猪鍋は「二番煎じ」で火の用心で町内を歩く旦那衆が寒さしのぎに用意、これを見回りの役人に食べられ...という噺。
志ん朝師が良かったが、今だと落語芸術協会の立川談幸師が楽しげに演じ、同会会長春風亭昇太師も演っている。
あんころ餅に金をくるんで食べ、死んでしまうのが「黄金餅」の坊さん・西念。焼き場で西念の腹を掻っ捌いてこの金を...というものすごい噺。古今亭志ん生師と談志師が名作に仕立てた!
「この金を元手に、目黒で餅屋をやってたいそう繁盛をしたという、黄金餅の由来の一席でございます」と締めるのもスゴイ!これこそ落語!
「甲府ぃ」「鹿政談」などに登場するのがおから。「甲府ぃ」では、甲府から江戸に出てきた伝吉が盗み食いをし、「鹿政談」では奈良の鹿が盗み食いをする場面から噺が始まる。「徂徠豆腐」での立川志の輔師の豆腐の食べっぷりの見事さ!見ていて食べたくなった。
「代書屋」に出てくるのが今川焼。先代(四代目)桂米團治師が作った噺でその弟子の米朝師から一番弟子の枝雀師、先代(三代目)桂春団治師や談志師らに受け継がれ、柳家権太楼師や古今亭志ん陽師ら東京でも演り手がいる。
(KyodoWeekly・政経週報 2020年4月13日号掲載)
最新記事
-
明治大正期に大衆化 郷愁感じる「縄のれん」 植原綾香 近代食文化研...
外の空気が冷たくなってくると、赤ちょうちんの情景が心に浮かび、手狭で大衆的な居...
-
何個も食べられる甘さ加減 あばあちゃんのおはぎ 眉村孝 作家
宮崎駿監督のアニメ「となりのトトロ」で、サツキ・メイ姉妹の一家が田舎へ引っ越し...
-
おおらかに味わうシメの1杯 「元祖長浜屋」のラーメン 小川祥平 登...
古里の福岡を離れた学生時代、帰省の際は旧友とたびたび街へ繰り出した。深夜まで痛...
-
指なじみと口触りで変わる味 飲食店の割り箸の歴史 植原綾香 近代食...
マレーシアに赴任した大学の友人から電話がきた。マレー料理のほかにも中華系の店も...
-
街ごと楽しむ餃子 宇都宮で「後は何もいらない」 眉村孝 作家
6月下旬の週末の夕方。宇都宮市に単身赴任中の先輩Zさんと合流すると早速、JR宇...
-
東京にある「古里の味」 73年から豚骨ラーメン 小川祥平 登山専門...
京都小平市の西武鉄道「小川駅」から歩く。近づくにつれて漂ってくるにおいに「あれ...
-
あめ色に煮込んだカキ 宮城・浦戸諸島の味 小島愛之助 日本離島セン...
日本三景の一つである宮城県・松島湾に浮かぶ浦戸諸島、250を超える島々で形成さ...
-
特別なキーマカレー 利根川「最初の1滴」食べた 眉村孝 作家
「利根川の最初の1滴をくみ、みんなで朝のコーヒータイムを楽しみませんか」。こん...
-
戦火のがれきからよみがえった酒 沖縄、百年古酒の誓い 上野敏彦 記...
県民の4人に1人が犠牲になった沖縄戦。今年の5月15日は沖縄が日本に復帰して5...
-
カフェー情緒が濃厚だったころ 版画「春の銀座夜景」に思う 植原綾香...
仕事を終えて外にでると、蒸した空気に潮の香りが混ざっている。夏が来たと思う瞬間...