何個も食べられる甘さ加減 あばあちゃんのおはぎ 眉村孝 作家
2022.10.17
宮崎駿監督のアニメ「となりのトトロ」で、サツキ・メイ姉妹の一家が田舎へ引っ越してきて、近所のおばあちゃん宅で作ってもらったおはぎを食べる場面がある。
「おばあちゃんちのおはぎはとっても好き」とサツキが喜ぶと、おばあちゃんは「たんとおあがり」と返す。その間、メイはおはぎをほおばっている。トトロは、私の長女が好きで幾度となく見てきた。この場面は20秒足らずだが、見返すたびにおはぎがおいしそうに見える。
トトロの舞台は昭和30年代の埼玉県所沢市といわれる。私も所沢生まれ。姉妹に比べだいぶ年下の世代だが、子どもの頃に走り回った所沢と映画の世界はつながっているように感じる。
おはぎのシーンにひかれるのは、私自身も「おばあちゃんのおはぎ」を楽しみにしてきたからかもしれない。私が幼かったとき、春と秋のお彼岸になると母方の祖母がおはぎをたっぷり作ってくれた。祖母が亡くなると、その習慣を母が引き継いだ。
トトロのおばあちゃんのおはぎは3色だが、祖母や母が作ったのは、甘さ控え気味の小豆あんと、その上にきなこをまぶしたものの2種類だった。そして口直しの塩昆布が添えてある。最初は小豆あん、次はきなこと食べていく。塩昆布で口直しをすると、あともうひとつと、また手に取りたくなるのだ。
子どものころ、お彼岸の時期には、生後すぐに亡くなった兄の墓参りに家族で出かけるのが恒例だった。墓参りはちょっと面倒だが、おはぎは待ち遠しい。お彼岸とはそんな季節だった。私が結婚してからも、母は高齢になるまで我が家のためにおはぎを作り続けてくれた。
最近、長女から教えられて、祖母や母のおはぎに似た味に出合った。食品スーパー、ヤオコーのPB(自主企画)商品「あずき香る 粒あんおはぎ」だ。(写真:筆者撮影)
仙台市郊外の秋保温泉に、手作りおはぎを1日5000個も販売する「主婦の店さいち」という店がある。ヤオコーの担当者はその評判を聞き、関係者から作り方を伝授してもらい、2003年に開業した埼玉県川越市の新店で売り出した。素朴なおいしさが評判となり、今ではヤオコー全体の名物商品に育った。
通常のおはぎのあんの糖度は45度だが、ヤオコーは38~39度。賞味期限は短くなるが、小豆粒あんのおいしさが引き立つという。おはぎを握るのは各店の担当者。社内に技術認定試験「おはぎ検定」を設け、手握りながらも同じ味、品質を保つ工夫を凝らしている。
粒あんおはぎを一口ほおばる。祖母や母のおはぎより、粒あんが多めだ。だが粒あんの食感や味加減は似ている。「そうか、何個も食べたくなる秘訣は絶妙な甘さ加減にあったのか」。かみしめながら、サツキやメイが食べたおはぎ、祖母と母のおはぎに思いをはせた。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年10月3日号掲載)
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