「コメ自給」破綻の予感 鈍化する規模拡大 アグリラボ編集長コラム
2024.08.04
(越後平野、2023年10月3日)
コメの価格が5月頃から上昇基調だ。一部のスーパーでは「お一人様5㌔2袋まで」と購入を制限する動きも出ており、将来の「コメ不足」を予感させる事態だ。
背景には、新型コロナ禍の影響で客足が減っていた外食産業界で需要が急激に回復したことがある。一方、昨年の猛暑の影響で新潟などの主産地で品質が悪化し、供給が減って23年産主食用米の民間在庫量(6月)は156万㌧と1999年以来最低の水準だ。適正水準とされる180~200万㌧を大きく下回り、新米が出回る前の端境期の中で、売り惜しみ、買い急ぎが起きている可能性がある。
ただ9月になれば新米(24年産)が本格的に出回り始める。農水省は「新米の出回りまでに必要な在庫水準は確保されている(中略)主食用米の全体需給としては、逼迫している状況ではない」(8月2日の坂本哲志農相会見)と説明している。コメ相場の急騰は一時的で、当面の供給力に問題はなさそうだ。
しかし中期的な展望となると、話はまったく別だ。農水省は昨年「2000年に240万人いた基幹的農業従事者は22年に123万人とほぼ半減しており、今後20年間で30万人に急減する」という衝撃的な見通しを公表している。少ない農家でどうやって生産量を確保するのか。
農水省の処方箋(せん)は、農地を集約して経営規模を拡大し、情報技術(IT)や人工知能(AI)を活用して効率を高めるという「少数精鋭化」だ。6月に施行された改正食料・農業・農村基本法でも、規模拡大とスマート農業の普及を加速する方向性を追認、強化した。
この戦略が正しいとすれば、問われるのは、農家の減少のスピードに経営規模の拡大が追いつけるかどうかだ。追いつけなければ、全体の生産力を維持できない。生産力の低下が、人口減少に伴う国内需要の減少よりも大幅だと、コメ不足が現実になる。
昨年7月19日に、三菱総合研究所はレポート「食料安全保障の長期ビジョン 2050年の主食をどう確保するか」を公表し、50年までに地域の農業経営体数が80%減少し、3分の1の農地を耕作できなくなり、「普段食べている米の自給すらままならなくなる」と警告した。
今年6月にその懸念が深まるデータが公表された。24年3月末の農地の集積率が60.4%にとどまり、政府の目標の8割を大きく下回った。安倍晋三政権は13年6月に、意欲と能力のある農家への集積率を48・7%から10年後に30㌽高める目標を公表した。農水省は14年に農地バンク(農地中間管理機構)を創設し、農地集積率を高めてきたが、その伸びは鈍化している。
聞こえてくるのは、「自分の農場に近い優良農地は既に集積が終わっている」「規模拡大したくても人手を確保できない」「大規模経営に必要な農機やIT機器は高額で、コメでは投資に見合う収益を確保できない」など、規模拡大が限界に近づいているという悲観論だ。
規模拡大は息切れ状態なのか。そうならば、コメの自給は維持できなくなる。労働生産性と土地生産性を向上させれば供給を維持できるという「少数精鋭化」自体に無理がある可能性もある。コメ不足が現実になった時に「安倍農政が間違っていた」と嘆いてみても始まらない。
農水省は、「集積率8割」の目標が未達に終わった理由を地域や事例ごとに精査し、改正基本法を受けて策定が始まる中期指針の食料・農業・農村基本計画に生かすべきだ。(文・写真:共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)
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