太平洋クロマグロの漁獲枠拡大で合意 佐々木ひろこ フードジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」
2024.08.26
7月半ば、日本の漁業者がここ数年待ち望んでいた大きなニュースが流れたことをご存じだろうか。マグロやカツオなどの資源保存と持続的利用を目的とした国際機関、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の会議で、太平洋クロマグロの総漁獲枠拡大が合意されたというニュースだ。(写真:2018年春、移転前の築地市場にて。競り場に並ぶマグロの数も、この頃より増えている=筆者撮影)
その内容としては、来年2025年より30キロ以上の大型マグロの総漁獲枠が50%増。「めじまぐろ」などと呼ばれる30キロ未満の小型マグロについては初となる枠拡大(10%増)。日本の漁獲枠も応分に拡大されるため、国内漁業者が漁獲できるマグロも増えるはずとあって、各所での期待は膨らんでいる。
さて、太平洋クロマグロ(以下クロマグロ)とは、「本まぐろ」と呼ばれる魚のうち太平洋で生まれ育つ魚種を指す。この種は戦後、乱獲などによりその数を大きく減らした経緯があり、14年には国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種のうちリスクが3番目に高い「Ⅱ類(危急)」に指定された。
そのような状況を重く見たWCPFCは同年、水産資源を回復させるためには最優先に守るべきと考えられている未成魚、つまり小型マグロについて、総漁獲枠を大幅に減らす管理措置を決定する。「世界一のマグロ消費国」日本への世界の目が厳しさを増す中、わが国はもちろん各国が自国の漁獲枠を順守した結果、この10年足らずで大幅に資源が回復したのだ。
実際、クロマグロの増加は漁業者が体感できるレベルにもなっているようだ。筆者も「あちこちでクロマグロが跳ねている」とか、「定置網に一気に群れが入って漁獲枠をオーバーしてしまい困る」など、各地の漁業者からマグロの明るい話を聞く機会が多い。
厳しい規制を守ることで資源を回復させ、その結果堂々と漁獲枠を増やすことができた今回の流れは、漁業者にとっても関係者にとっても得難い成功体験になっただろう。おいしいマグロを今後もずっと食べ続けるために、政府にはこの流れを持続させるとともに、今回現場で生じたさまざまな問題を精査し、今後他の多くの水産物の資源管理において役立てていただきたいと願っている。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年8月12・19日合併号掲載)
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