観光ビジネスのプレイヤーの変化 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授 連載「よんななエコノミー」
2024.08.26
コロナ禍以降、観光に関わるビジネスプレイヤーが変化してきている。これまで観光というと、交通事業、宿泊・飲食業、旅行業、観光施設業、土産品製造・販売業などがビジネスの中心であったが、現在では、小売業、不動産業、金融業、情報サービス業、農林水産業、広告業、行政機関などこれまでとは異なる業種が大きな役割を持つようになった。
この背景には、大きくインバウンド旅行者と公共事業の増加がある。インバウンド旅行者数は2012年頃から大幅に増加し、その旺盛な消費力は宿泊・飲食にとどまらず、高級ブランド品や家電、日用品にまで及び、観光とは無関係の小売業やメーカーなどにも観光旅行者が大きな市場となった。
もう一つは、国際観光旅客税の導入によって収入源が確保され観光の公共事業が一気に増えたことによる。24年1~7月までの観光庁の採択事業だけでも30件以上あるが、一つの事業で数件~数十件の事業主体がおり、さらにそこには多くのプレイヤーが参加している。こうした公共事業の多くは地域資源を活用しユニークなコンテンツづくりと周辺整備を行うことを目的としたもので、事業を行いたい事業主体を観光庁が募集・採択し、それに助成する仕組みだ。実際の事業主体になるのはSPCと呼ばれる特別目的会社やDMO/DMCと呼ばれる観光地域づくり法人であることが多い。
こうした事業主体に参加するプレイヤーを観光庁の「歴史的資源を活用した観光まちづくり推進事業」の例でみると、古民家を宿泊施設として活用するため不動産業や建築・内装業、これに融資を行う金融業、ホテル運営業などが参加している。内装に地域性を出すなら工芸品の工房、提供する飲食に地域の特色を出すには地元の農林水産漁業も関わる。さらにPRや集客には旅行業やマーケティング・PR、情報サービス業なども参加する。
また、こうした公共事業の運営管理も、多くの場合は行政から民間企業に委託されており、広告代理店やコンサルティング会社、大手旅行業者などがこれを担うことが多い。
観光が"余暇活動"ビジネスとして捉えられていた時代のプレイヤーは限られた観光業者であったが、"地域活性化"ビジネスと考えられるようになったことで関わるプレイヤーが一気に広がった。経済波及や事業展開は楽しみである半面、かつての公共事業とゼネコンのような関係にならないか少し心配でもある。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年8月12・19日合併号掲載)
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