目先の値上がりより米自給の存続に目を 小視曽四郎 農政ジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」
2024.08.19
主食とはいえ、支出額では完全にパンに抜かれ、年間支出額でも2万円を割った米(2022年一世帯食費占有率2%)。しかし、産地と卸との相対取引価格が11年ぶりに上昇(23年産6月全銘柄平均60キロ当たり1万5865円)、スポット価格も関東コシヒカリが60キロ2万6480円(7月上期)となり、早くもメデイアが「家計に打撃か」などと取り上げている。(写真はイメージ)
昨年産米は作況指数101の平年並みで収穫量は661万トンが確定。ただ、作況の割には「猛暑で生産量が下振れしている」「高温障害で精米の歩留まり低下も尾を引いている」(流通業者)など、意外に供給が少ないとか。一方、消費は「(主食用米の)前年より増加傾向にある」(6月7日、坂本哲志農相)ため、場合によっては年間ベースでは東日本大震災の反動で上昇した13年以来の上昇の可能性も。結果、米の民間在庫量は「過去5年で最少水準で推移」(同)しているという。
これが久しぶりの値上がり傾向の理由だ。ただし、この値上がりに生産サイドが大喜びかといえばノー。相対価格上昇とはいえ、平均60キロ1万5千円程度というコスト水準をようやく上回る程度。この価格上昇で消費者の米の買い控えや農家の作付け意欲が増して需給が緩めば価格はいっぺんに下降曲線となりかねない。米価は04年の改正食糧法以降、需給や市場動向に翻弄(ほんろう)され、昨年までの20年間の平均相対価格は半分の10年間で60キロ1万5千円以下となった。このうち、10年は1万2711円、14年は1万1967円と暴落状態。15年も1万3175円、近年では21年に1万2804円、22年も1万3849円と低迷が深刻化した。農林水産省営農類型別統計によると平均的稲作農家の農業粗収益は21年(水田面積2・5ヘクタール)が350万3千円で経営費は349万3千円となり、農業所得はたったの1万円。22年(同2・8ヘクタール)も粗収益は378万3千円、経営費は377万3千円と農業所得は同じく1万円。これを投下労働時間で割ると両年とも時給は10円と驚くべき数値となった。これが一般労働者なら暴動だけでは済まない。
こうした悲惨な稲作経営による低米価は、消費者にはありがたいが、生産農家には意欲と展望をくじかれてきた歴史である。国策として生産性の高い農家を主体にという構造改革が狙いだったろうが、結果、米の生産基盤は急速に弱体化。「2030年代にも国内の米需要を補いきれないくなる」と新たな米自給崩壊予測(6月12日)が出た。全国の米卸会社でつくる全米販と日本総研との共同予測だが、稲作農家の高齢化や離農などが主な理由で、昨年の三菱総研に続く予測だ。日本が唯一自給してきた米を他国に依存する事態となれば米価は大きく乱高下する時代になるのは必至。食料安保の中核としての水田農業をどう持続させるのか、国民は無関心ではいられない時代が来ている。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年8月5日号掲載)
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