農水省「3つの過ち」 長期化したコメ不足 アグリラボ編集長コラム
2024.09.08
9月に入って待望の新米(24年産)が出回り始め、コメ不足は徐々に落ち着くとみられる。しかし、価格は高止まりし混乱が長引き、消費者の不安は収まっていない。農水省は「全体の需給として、必要な在庫水準が確保されている」(坂本哲志農相)と言い続けているが、それならばなおさら、同省の不手際の責任は重い。
農水省の過ちは主に3つある。第1は、6月の段階で流通在庫の水準の低下が明らかになったのに、それを軽視したことだ。同月11日の参院農林水産委員会で日本共産党の紙智子議員がコメ不足の対策を求めたのに対し、「販売店で欠品が多い状況ではない。政府備蓄米の放出は考えていない」(坂本哲志農相)と応じ、米価については「流通の過半を占める相対(あいたい)取引価格は10%程度の上昇で極端な上昇ではない。一方、卸売業者間のスポット取引は高騰しているが大きな影響はない」(平形雄策農産局長)と説明した。
局長の説明自体は間違いではないが、その後に予想される台風などの影響を織り込んで流通在庫の精査や精米を前倒しにするなどの準備を怠った。実際に8月8日に日向灘を震源とする地震が発生し、「巨大地震注意報」が出され、さらに台風の影響で家庭備蓄を増やす動きが強まった。農水省が流通の円滑化に乗り出したのは岸田文雄首相の指示を受けた8月27日からだ。野党からの「警告」と十分な準備期間があったのに、対応が後手に回った。
第2の過ちは、政府備蓄米の放出を拒む姿勢が頑迷だったことだ。備蓄を放出すれば、供給過剰となり価格が下落する。その影響が農家の所得に直結する相対取引に及ぶことを農水省は警戒する。ただ「新米の出回りも踏まえれば(放出は)慎重になるべき」(坂本農相)と強調する必要はなかった。「場合によっては検討する」と思わせぶりな発信をするだけでも、高騰をある程度抑制できたはずだ。外国為替市場の「口先介入」と同じだ。
第3の、そして最も本質的な過ちは、農水省がコメ不足を部分的な現象と捉え、「新米が出回れば解消する」と消費の最前線を軽視し続けていることだ。農水省は、1995年に廃止された食糧管理法を引きずり、川上(生産側)から食料を「供給する」という上から目線の発想が根強い。
今年6月に改正された食料・農業・農村基本法は、食料安全保障を「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態をいう」(2条)と定義し、基本法の理念のトップに位置付けた。「供給だけでは駄目だ、国民一人一人、つまり、子供も高齢者も、貧しい人も、健康や宗教上の理由で食生活が制限される人も、食べものを手にすることができる」と宣言したのだ。
それなのに、現実にコメが不足し、価格が高騰して消費者に不安を与えた。農水省自ら改正基本法の理念を真っ先に踏みにじったのも同然だ。昨年は猛暑で新潟県産米に白濁が目立った。いくら農水省が「味には問題がない」と訴えても、店頭で販売される食用としての人気が落ちて、今回のコメ不足の遠因になった。
農水省には、消費者への目配りが決定的に欠けている。この意識を転換できない限り、コメに限らず、卵も、野菜も、バターも、不足が再発する可能性は常にある。(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)
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