消費者は、食料・農政のチェック役に 小視曽四郎 農政ジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」
2024.07.15
5月29日の参院本会議で可決、成立し、6月5日施行となった改正食料・農業・農村基本法。食料安全保障の確保を新たに基本理念に位置付け、農政を再構築しようという改正法である。(画像はイメージ)
その第14条に「消費者の役割」がある。ほとんど注目されていないが、いわく、食料、農業、農村に関する理解を深めること、食料の持続的な供給に寄与しつつ消費生活の向上に積極的な役割を果たす、など。さらに、改正に絡み「食料消費に際し、環境への負荷の低減」、その他「食料の持続的な供給に資する物を選択」せよ、との指示が盛られている。専ら、改正法が示した方向で消費者は行動し協力せよ、との趣旨だ。やや命令口調で違和感を覚える人もいるだろう。しかし、要は「食料や農業、農村の動向に関心と理解を深め、食料が安定して供給できる食材を選んでほしい」と理解すれば、至極当然なことが求められている。
ただし、消費者は農業の最終的にして最大の受益者であると同時に、農家とともに最大の被害者にもなりうる立場。今後は改正法を土台にした食料、農業行政の強力なチェック役になることを新たな役割として提案したい。
なぜチェック役かといえば、今回の法改正の主眼が消費者、国民を想定した「食料安全保障」だから。1961年の旧基本法は農家と他の産業者との格差問題や自立農家の育成などまさに農業と農家が主役。99年の前基本法は、意欲ある担い手への施策の集中や価格形成に需要や品質の反映、農業の多面的機能など、やはり農業や農家への対応が中心だった。
しかし、今回の改正は国民一人一人への良質で合理的な価格での食料供給が基本的テーマに変化。同時に国内農産物の輸出を重点にし、農家と並行して食品業者の収益向上を明記。また、激減する農業者の代わりに先端技術の活用、いわゆるスマート農業の促進など農業をビジネス化する方向性が顕著だ。「国内農業生産の増大を基本」とするなら、農林水産省管轄ではないが、関係人口の拡大や移住希望者の高まり、地域おこし隊員の活躍などを背景に、新規就農者の拡大を諦めるべきではない。
環境負荷低減作物の推進はともかく、激減する農業者に代わり食品事業者やAI企業などの活躍を想定した、いわゆるスマート農業の促進で、10年、20年後の農業、農村の風景はどうなるのか。最終的に食料安保の行方の影響を受ける消費者側は当然傍観してはならない。食料行政や農業団体、食品企業、あるいは自治体などと積極的に意見交換し、消費者側の要望を伝えていくべきだ。
問題は消費者側がどれだけまとまった行動ができるか。基本法の成立前には、複数の生協が政府や政党に要望するなどの行動はみられた。ただ、いまひとつ大きなインパクトを感じない。消費者、生活者にとっての重要な食に関わる節目として、消費者間で大きな動きが生まれることを期待したい。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年7月1日号掲載)
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