新潟県で広がる小麦生産 青山浩子 新潟食料農業大学准教授 連載「グリーン&ブルー」
2024.08.05

新潟にはラーメン店が多い。家計調査でも、ラーメンに費やす支出額が全国第2位だという。学生にもラーメン好きが多いが、昨今の値上がりに肩を落とし、「1杯千円は高すぎ」「もはや高級すぎて食べに行けない」とぼやいている。主原料の小麦粉などの値上がりが響いているという。8割以上を輸入に頼る小麦は円安の影響をまともに受けた。(写真はイメージ)
そんな動きと前後し、新潟県でも水田を活用した小麦生産が広がっている。主食米の需要減対策として稲作農家が栽培を始めたことに加え、県内の製粉業者が農家と契約を結び県産小麦の扱いに力を入れてきたこと、同県の気候に適合した品種が開発されたことなどが背景だ。水田全体からみれば米粒ほどだが2023年は164ヘクタールで10年前の7倍強だ。
すでに私たちの食生活に浸透しており、パン店には「新潟県産小麦使用」などのポップを頻繁に見かける。パン店ほどの盛り上がりはないが、県産小麦使用をうたい文句にするラーメン店も出始めた。
農家にもメリットはあるようだ。新潟市内で稲作をメインにしながら、小麦を数年前から作り始めた農家は「米に比べて省力化できる」という。稲のようにこまめに水管理をする必要がなく、労働時間削減につながった。小麦自体の価格は米と比べ安いが、国の補助金で補塡(ほてん)される点、生産に必要な各種機械購入に補助事業が使えるため導入しやすかったという。
需要もあり、農家にもメリットがあるなら、今後さらに生産が増え、より多くのラーメン店やパン店が使うはず--。そんなシナリオが描けそうだが、現実は難しい。小麦はあくまで原料だ。製粉業者を経由し、小売店や外食店に広く行き渡るには相当な量が必要だ。農家が主食米の代わりに農地の一部で小麦を作るという小さな取り組みでは限界がある。希望者が集まり、団地を形成し、そこに機械を入れて効率よく作業をするというような大胆な計画が必要だ。
水田での小麦栽培は補助金があって成り立っている。厳しい財政状況下で、恒久的な助成が続くのかどうか、税金として支える消費者の理解がどこまで得られるのかということも無視できない。
それでも可能性はある。小麦に限った話ではないが、農業振興を目的とした会合が県庁主催でたびたび開催される。そのため関係者は皆顔見知りだ。そうした人脈を生かし、課題を共有し、生産から流通までを安定化する方策を話し合うことで、県産小麦の普及を広げることができるのではないか。全国一のコメどころにおける小麦の動向に注目している。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年7月22日号掲載)
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