愛媛のグルメに歴史あり 畑中三応子 食文化研究家 連載「口福の源」
2024.07.29

6月に愛媛・松山を訪れ、ご当地フードを探索した。もっとも興味があったのは「じゃこ天」だった。昨年10月に秋田県の佐竹敬久知事が地元政財界人が集まる会合で「貧乏くさい」と発言し、秋田県庁に抗議が殺到。謝罪に追い込まれ、大きな話題を呼んだことは記憶に新しい。
東日本では衣揚げだが、西日本では魚のすり身を油で揚げたものも「天ぷら」である。海沿いの各地で生産されるなかで、とくに個性が強いのがじゃこ天だ。小魚を皮や骨ごとすりつぶすため色は浅黒く味は濃く、ミネラル豊富で栄養面でもすぐれている。(写真左:手前が宇和島産、後ろが八幡浜産のじゃこ天 右:約100年前に創案された元祖「つぼや」の坊っちゃん団子=いずれも筆者撮影)
災い転じて福となすで、知事の失言のおかげでその名とおいしさが全国に知れ渡った。もともとは愛媛県南部の宇和島、八幡浜(やわたはま)の名産品だが、松山でも人気おみやげの筆頭。最近ではじゃこ天のすり身に細かく刻んだ野菜を混ぜ、パン粉の衣をまぶして揚げた「じゃこカツ」がB級グルメとして愛されている。
実はじゃこ天、東北と深い関係がある。大坂冬の陣の年、仙台藩主伊達政宗の長男、秀宗が初代宇和島藩主となり、故郷を偲(しの)んでかまぼこ職人を仙台から連れてきて作ったのが始まりといわれる。つまり仙台の笹かまぼこは、遠い親戚だ。伊達家と、のちに秋田藩主になる佐竹家は戦国時代に対立した歴史がある。佐竹知事は佐竹家の末裔(まつえい)。じゃこ天騒動はその因縁じゃないかと、こじつけられたりもした。
今回、5社の製品を食べ比べてみたが、見事に味と食感とも違った。宇和島産が小骨のジャリジャリした食感と弾力が強く、八幡浜産は柔らかくて小骨の食感が少なめと、産地によっても特徴がはっきりと分かれる。1枚が200円前後と、貧乏くさいどころか、値段はかなり高級だった。
俳人、正岡子規が生まれ育ち、夏目漱石「坊っちゃん」の舞台である松山は、文学と和菓子の街でもある。「マドンナだんご」「坂の上の雲」など、小説にちなんだネーミングの和菓子も多い。代表的なのが「坊っちゃん団子」である。
今では複数のメーカーが製造販売しているが、元祖は道後温泉で明治16(1883)年に創業した「つぼや」。明治28年に漱石が松山中学(現 松山東高校)に赴任した頃、この店の団子をよく食べに来たという。小説中でも坊っちゃんは「大変うまいという評判」を聞きつけて2皿も平らげ、生徒にからかわれている。
大正10年、現在の坊っちゃん団子を創案したのは、つぼや2代目。求肥(ぎゅうひ)もちを抹茶・白・小豆、3色の餡(あん)で包んで串に刺した銘菓だ。とろけるようになめらかな食感で、甘さはさらりとしている。坊っちゃんではないが、2、3皿は軽くいける上品さだった。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年7月15日号掲載)
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