古き良き相棒と海を越える 連載「旅作家 小林希の島日和」
2024.08.05
街に暮らしていると、船(定期船)を公共交通機関だと認識する人は少ないのではないかと思う。
私もしかり。島旅を始めて、日本にこれほど多くの船会社があるのかと驚いた。日本旅客船協会に所属している船会社だけで、離島航路の船会社を含めて約500社もある。
船に着目すると、そこから港のあり方や島を取り囲む海の特徴など、広い視野で地域が見えてくるのが面白い。
例えば、瀬戸内海の島々を運航するカーフェリーは、船体が吹き抜けになった造りをしているものが多い。穏やかで凪(な)いだ瀬戸内海では、走航中に波が船内に入ってくることがめったにないので、吹き抜け構造にして船体を軽くしている。
港によく浮桟橋や可動式桟橋が用いられているのは、瀬戸内海は1日の干満差が大きいから。古い港では、雁木(がんぎ)(階段状の桟橋)が見られ、風情を醸し出している。
香川県の讃岐広島に毎月通っていた頃、船舶免許を取得した。いざ操船すると、潮流が複雑だったり、岩礁が多くあったりして、「毎日練習しないと、操船は無理!」と悟った。以前、船員教育を行っている学校である海技教育機構で、「船は、風、波、潮といった自然を理解しなければ乗りこなせない乗り物なので、現代でも帆船を使った訓練をしている」と聞いた。
古来、日本人は船を使い、外の地域と交流や交易をしてきた民族だ。操船や造船の技術があったのは、自然をよく理解していた証しだ。
静岡県沼津市の愛鷹(あしたか)山麓にある3万8千年前の地層から、神津島(こうづしま)産の黒曜石の石器が発見されている。石器時代には、東京都心の南方180キロに位置する伊豆諸島の神津島と本州を航海していたようだ。
いったい、どんな船に乗っていたのだろう。縄文時代の遺跡から丸木舟が出土しているが、さらに古くは葦舟(あしぶね)とも考えられている。「古事記」や「日本書紀」には、日本を「豊葦(とよあし)原之瑞穂国(はらのみずほのくに)」と記している。「葦が茂り、稲穂がみずみずしく育つ、豊かな国」が、古代の日本だったとすれば、葦を使った舟も身近にあったのかもしれない。
近年は過疎高齢化で、離島航路の乗船者は減少し、航路の廃止や減便といった課題に直面している。当然、港も閑散として、少し寂しい。全国的に船員も減少している。
島へ向かう時、先人と共に歩んできた船の歴史や海に繰り出した彼らの勇気に、たびたび思いを重ねるようになった。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年7月22日号掲載)
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