ふるさと消滅に対抗する女性活躍の機会を 小視曽四郎 農政ジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」
2024.06.10
人口戦略会議(議長・三村明夫日本製鉄名誉会長)による「消滅可能性自治体」リストが地方自治体を揺るがしている。揺らぐのは当然で、消滅が持つ意味を置き換えれば、「ふるさと消滅」であり、農村コミュニティーの崩壊だ。リストに挙がった744市町村にしてみれば、一種の猶予付き死刑宣告にも等しく聞こえよう。
同会議の副議長、増田寛也氏が10年前に座長を務めた日本創生会議も当時、896自治体に消滅予告をして大きな衝撃をもたらした。このショック療法で1年後、当時の安倍晋三政権は「地方創生」を提唱。全国の市町村に「人口ビジョン」と「総合戦略」の策定を事実上強制。その後、「まち・ひと・しごと創成『長期ビジョン』」などにつながった経緯がある。結果として日本創生会議の報告は、全国の自治体を刺激して移住者呼び込み、近隣の自治体間で人口の奪い合いを起こし、公立小中学校の給食費無償化などを生んだ。
今回の報告もまた、前回同様のショック療法の下心があるのは当然として、このショックで改めて危機意識を見せるべきは自治体よりも国であることを強く自覚すべきだ。なぜなら、若者が地元から出ざるを得なくなるのは雇用や教育などさまざまな政治による社会構造の変化があるからで、自治体が対策しようにも限界がある。もしも可能性の通り自治体が消滅した場合、日本全体の経済・社会にどんな影響があるのかを率直に国民に提示し、協力を求めるべきだろう。
その点で懸念されるのが、食料供給や国土・環境の保全、生物多様性など農業・農村が有する多面的機能の喪失だ。自治体消滅はイコール「ふるさと消滅」だが、農業・農村の消滅とも同義語だろう。そうなれば、消費者も安閑としてはいられない。自治体消滅は消費者問題でもある。
だが、そんな中、国会で審議中の食料・農業・農村基本法論議では、人口戦略会議の報告がポイントとして挙げる若い女性の県外や都市への流出、1次産業に伴う雇用機会の創出、農業経営内での女性の活躍の場確保、家庭内での家事と労働の分担、ジェンダーギャップの改善など、女性を巡る議論がほとんど見られない。農林水産政策研究所の分析では、経営に参画した女性は、出荷先の確保や資金調達、農産物加工、観光農園など経営上の企画や6次産業化を広げる傾向があることが分かっている。結果として、女性が参画する経営のほうが経営面積規模も大きいという。
だが、現実は農業でも女性の減少が目立つ。昨年の基幹農業従事者のうち女性は45万2千人と、2015年の42%台から38%台となり、さらに39歳以下は一層低い。
基本法改正案第34条には「女性の参画の促進」が明記されているが、内容はほとんど変化ない。地域再生は女性が鍵と、今からでも女性が生き生きと働ける条件の仕事づくりを進めるべきだ。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年5月27日号掲載)
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