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地域住民の「共感」と「参加」  沼尾波子 東洋大学教授  連載「よんななエコノミー」

2024.06.03

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地域住民の「共感」と「参加」  沼尾波子 東洋大学教授  連載「よんななエコノミー」の写真

 各地でバスや鉄道など公共交通の存続が課題となっている。運転手の確保に加えて、燃料費の高騰、利用者の減少が経営を難しくしている。

 こうした公共交通の経営難は人口減少が進む地方圏に限った話ではない。東京都交通局によれば、2022年度の都バス127路線のうち、黒字は28路線(22%)であり、99路線(78%)が赤字となっている。

 コロナ禍が収まり、日本を訪れる外国人観光客も増えていることから、今後、収支が改善する路線もあるだろう。他方でテレワークをはじめとする働き方の変化もあり、今後の通勤通学客の動向は不透明でもある。

 東京都では、東京さくらトラム(都電荒川線)や日暮里・舎人ライナーも赤字基調が続く。いずれも経営改善が求められている。

 では改善に向けてどう取り組むか。そこでは、公共交通に対する住民や利用者の「共感」と「参加」が求められているように思う。

 バスや電車など、私たちの暮らしを支える公共交通に対して愛着や理解が持てるかどうか。その路線を利用しながら、景色を愛でたり、車内空間を楽しんだりすることを含め、公共交通に対する意思が問われそうだ。

 公共交通を快適で楽しみながら利用できるよう、事業者側は工夫を行っている。例えば、都営地下鉄では子育て応援スペースとして、キャラクターや絵本の装飾を施した車両を用意しており、この一角は大人も楽しめる空間となっている。施設のバリアフリーやホームの安全対策など、利便性向上も図られている。こうしたサービスへの共感とともに、費用負担の在り方を考える視点が必要だ。ただ赤字を理由に料金値上げを掲げても、人々の理解は得られにくい。

 滋賀県では持続可能な公共交通を支える財源として、「交通税」が検討されている。そこでは、住民の足を維持することの大切さが説かれ、それを地域ぐるみで支え合うための新税導入がうたわれている。あるいは和歌山県の貴志川鉄道のように、地域住民で「乗って支える」運動が、公共交通の存続を下支えする例もある。

 地域住民が、公共交通の事業内容や経営実態について知る機会を持つことも必要だろう。車内映像で、安心安全を守る従業員の日々の取り組みが放映されることがある。事業や経営に対する理解と共感につながる試みの一つともいえる。

 ライドシェア導入の検討や、電動キックボードの普及をみても、人々の移動手段はますます多様化していくと考えられる。公共交通をどう維持し、改革するのか。サービス内容や費用負担の在り方を含め、地域ぐるみで考える時期に来ている。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年5月20日号掲載)

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