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自治体の「消滅可能性」 地域で雇用環境改善の努力を  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員  連載「よんななエコノミー」

2024.06.10

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自治体の「消滅可能性」 地域で雇用環境改善の努力を  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員  連載「よんななエコノミー」の写真

 民間有識者により構成される人口戦略会議が、「地方自治体『持続可能性』分析レポート」を作成、公表しました。今後30年で若年女性の半減が予想される自治体の消滅可能性が指摘されています。消滅可能性自治体の定義は、2020年から50年までの30年間で20〜39歳の女性人口(若年女性人口)が50%以上減少することです。今回のレポートでは744の自治体(全体の43%)が該当しています。

 10年前にも、同様の手法で消滅可能性を指摘したレポートがあり、それは国による地方創生戦略の基本コンセプトを形作るものとなりました。地方創生戦略では、20年までに東京圏の転入超過数をゼロにすることが目標とされ、各地方自治体において雇用創出や移住促進などが取り組まれました。しかしながら、地方創生戦略策定時に年間およそ12万人程度であった東京圏の転入超過数は減ることなく、コロナ禍直前の19年にはおよそ15万人に増加しました。

 「消滅可能性」というショッキングな言葉は地方自治体が危機感を募らせるのに十分なインパクトを与えるものでしたが、それに突き動かされた地方創生戦略が若年世代の地方定着につながることはありませんでした。元来、人口の地域間移動の最大の要因は、雇用機会の偏在にあります。ところが地方創生戦略では、産業振興や雇用創出などが十分図られることはなく、移住希望者という極めて限られた人口の奪い合いに、多くの自治体が注力する結果となってしまいました。

 移住者誘致政策によって、東京など大都市から若い世代を呼び込むことができればよかったのですが、そうした事例は決して多かったとは言えず、時には隣り同士の自治体間で人の奪い合いとなってしまったこともあったようです。

 過疎集落などの小規模な地域コミュニティーにおいて、移住者が地域の持続性向上に重要な役割を果たしている肯定的な側面はあるものの、ある程度の規模を有する自治体の流出者数を補うのに十分な人数を受け入れることを期待するのは現実的ではありません。

 地方自治体による移住希望者の獲得合戦は、ゼロサムゲームに例えられます。今回のレポートをきっかけとして、消滅可能性を指摘された自治体を中心に、再び移住者獲得が過熱してしまうことが懸念されます。

 消滅可能性を指摘された自治体においても、過剰に反応することなく、冷静に受け止めることが必要です。まずは、各地に立地する企業において、良質な雇用を育てていくことに、これまで以上に注力することが大切です。地方から大都市に移動する傾向の強い大卒者などの定着を図るため、賃金上昇や高度人材向け雇用の創出に注力すべきです。特に近年は、地方からの流出は男性よりも女性のほうが多い傾向にあるため、女性を雇用する環境や条件の質を高め、待遇の男女間格差を解消することが必要です。

 自治体や地域金融機関、さらには経済団体などが連携し、地域企業において雇用環境の改善を図る地道な取り組みこそが、若い世代の定着につながるという認識が大切です。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年5月27日号掲載)

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