歩行者の安全性を意識したまちに 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員 連載「よんななエコノミー」
2024.07.15
長期にわたり減少トレンドであった交通事故件数が、ここ3年ほど下げ止まっています。
警察庁によれば、わが国の交通事故件数は、95万件であった2004年をピークに、1年に4万件のペースで減少し、20年に前年比7万件の大幅減となって以降はほぼ横ばいで推移しています。事故件数同様、減少傾向にあった交通事故死者数・負傷者数も横ばいです。
20年に事故件数が大幅減となったことについては、コロナ禍における人々の行動様式の変化の影響が指摘されています。実際、20年以降自動車の走行距離は低水準で推移しており、これが交通事故の大幅減をもたらしたとみられます。また、その後に事故件数が減少から横ばいに転じたことも、コロナ禍の行動様式の変化が一因となったと考えられます。人流が回復するなかでも人混みを避けるためマイカーを使ったり、近距離の移動であれば、自転車や徒歩を選んだりする人が増え、結果的に交通事故に巻き込まれるリスクが高まったとみられます。実際、65歳以上の交通事故死者1913人のうち45・8%に当たる877人が、歩行中に交通事故にあったものです(22年実績、事故後30日以内の死者数)。
また、75歳以上の後期高齢者の運転による死亡事故件数も、20年にいったん333件まで減りましたが、以後は増加傾向となり、23年は384件でした。後期高齢者による死亡事故件数がここ数年増加傾向にある理由の一つに、団塊の世代が後期高齢者の仲間入りをしたため、運転する後期高齢者が増えていることがあります。
高齢者の免許証の自主返納促進や免許証更新時の実技試験導入などが各地で進められているものの、返納率はここ数年低調に推移しています。特にコロナ禍で、人混みを避ける意識からマイカーを移動手段とすることを望む高齢者が一定数いることや、そもそもコロナ禍でバス路線の廃止や減便する動きが各地で加速しており、生活していく上で免許証を手放せないと考える高齢者もいるでしょう。
事故を減少させ、死亡者・負傷者を減らしていくために何ができるでしょう。まずは、自動車自体のさらなる安全性向上のため、すべての新車に最新の衝突回避システムの搭載を義務化するのはどうでしょうか。
また、道交法を歩行者優先で見直すことも必要です。昨今、ようやくこうした意識で道交法を見直す動きが見られ始め、26年から生活道路の法定速度が時速60キロから30キロに引き下げられる見通しです。ただ、今回は速度規制が明示されておらず、中央線が引かれていない生活道路だけが対象です。歩行者や自転車乗車中の交通事故死亡者の割合が、他の先進諸国に比べてひときわ高く、5割を超えるわが国においては、制限速度の見直しの対象を、自動車専用を除くすべての道路に拡大してもよいのではないでしょうか。
今後もさらなる高齢化が進むわが国では、公共交通の充実と人優先のまちづくりが不可欠です。歩道や自転車専用レーンの整備、市街地からの通過車両の排除など、まちの主役たる歩行者の安全性を強く意識したまちづくりが必要といえましょう。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年7月1日号掲載)
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