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「食料安全保障の確保」へ 農業所得の向上と安定化を  沼尾波子 東洋大学教授  連載「よんななエコノミー」

2024.07.08

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「食料安全保障の確保」へ 農業所得の向上と安定化を  沼尾波子 東洋大学教授  連載「よんななエコノミー」の写真

 「農政の憲法」とされる食料・農業・農村基本法の改正法が国会で成立した。

 改正法では、「食料安全保障の確保」が法律の基本理念に加えられ、農産物や農業資材の安定的な輸入を図ることや、農業法人の経営基盤の強化、スマート技術を活用した生産性向上などに取り組むことなどが盛り込まれた。

 基本法改正後、さらに「食料供給困難事態対策法」など関連3法も相次いで成立した。

 1999年に基本法が制定されて以来、四半世紀が経過し、日本の農業や食料を取り巻く状況は大きく変化している。ロシアのウクライナ侵攻後、穀物や肥料の相場は高騰している。世界的な人口増加による食料争奪の激化、気候変動による食料生産の不安定化による食料安全保障上のリスクも高まっている。

 日本の食料自給率はカロリーベースで38%と主要先進国の中では極めて低い。食料の多くを海外からの輸入に依存する状況は大きなリスクとなる。安定的な食料供給に向けて、まずは輸入に依存する体制を見直し、自給率向上を目指す政策を推進することが必要だ。

 だが、農業者を取り巻く環境は厳しい。農産物価格の低迷に加えて、肥料や燃料などの高騰も追い打ちをかける。基幹的農業従事者は116万人(2023年)、うち50歳未満は約1割、平均年齢は68・4歳(22年)であり、今後その数は大幅に減少することが見込まれている。担い手確保に向けて、農業所得の向上と安定化が求められる。

 近年、ブランド米に象徴されるように、高付加価値型農業により所得向上を目指す取り組みもみられる。しかしながら、ブランド化を通じた価格競争は、農家の所得を不安定化させる側面もある。また、これにより食料の安定供給が可能になるかというと話は別である。高付加価値化と安定供給それぞれに対応した戦略が必要であろう。

 こうした中で、北海道東川町のローカルな取り組みは目を引く。東川町は大雪山水系の豊かな水に恵まれている。またJAひがしかわでは、環境に配慮したおいしい米を作るにあたり、独自の厳しい栽培基準などを設けて地域団体商標「東川米」を取得している。地元での消費とともに、地元が進める海外との連携交流などを通じて米の輸出にも取り組み、24年には702トンを輸出する計画だという。

 農業生産者、JAなどの団体、行政など関係者が連携して、地域の生態系や景観保全に配慮しながら、技術導入を含めた食料生産の環境整備と保全を考え、経済循環を創出する。

 食料安全保障の確保が課題となる時代、環境にも配慮し、おいしい水や食料を安定的に生産、供給し、それを住民が享受できる地域づくりは大きな価値を持つと感じる。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年6月24日号掲載)

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