食べる

理想的な食べ方「養」   安武郁子 食育実践ジャーナリスト  連載「口福の源」

2024.07.08

ツイート

理想的な食べ方「養」   安武郁子 食育実践ジャーナリスト  連載「口福の源」の写真

 栄養、養護、養育、養分、養生の「養」という漢字は「羊」「人」「良」から成り立っています。理想的な食べ方を示す「養」の歴史は古く、3500年以上さかのぼるといわれています。(イラスト:ⓒプラネット Dental Life 食育コンテンツ)

 「羊」は、牛、豚、鳥、魚など肉類、魚介類を含んだ動物食の総称です。「良」は白にさじ。米、稗(ひえ)、粟(あわ)、麦、豆などの植物食を脱穀精米して、口へ運び、いただく。そして、動物食と植物食をバランス(さじ加減)よく組み合わせて食べるのが「人」です。「羊」が上で「良」が下であることからも、「動物食を少なめにして、土台となる主食をしっかり食べよう」というメッセージを感じます。

 「養」に込められた意味を考えると、食べ物だけでなく、食べ方や食事の時間も重要だと感じます。ここで「良食」を追求すると、食材の組み合わせや調理法だけではなく、食事を楽しむ環境や心のあり方も大切であることに気づきます。

 例えば、主食となるご飯は、植物食である穀類ですので、ゆっくりと時間をかけて、よく噛(か)んで食べ、唾液をたっぷりと分泌させることが健康的な食べ方といえます。食事をする場所も、清潔感のある落ち着いた雰囲気の場所を選ぶと、食事がよりおいしく感じられるでしょう。

 何より、「いただきます」と手をあわせ、食材への感謝の気持ちや自然の恵みを受け取る姿勢は、食事をより豊かなものにしてくれます。食べ物をただ口に運ぶだけでなく、その恵みを噛みしめ、心を込めて食べることで、心にも栄養を与えてくれます。

 「良食」は、食材から最大限の栄養を摂取するだけでなく、健康を保つためにも欠かせない行為です。良い姿勢を維持して、リラックスして食事をすることで、消化器官を正常に機能させます。そして、適量を口に運びよく噛んで食べることは、食物を細かく分解して消化しやすくするだけでなく、満腹感を得るのにも役立ちます。このような食べ方が、口福の源となり、健康的な生活をサポートしてくれます。

 食事は、単なる栄養補給だけでなく、心と体の健康を保つための大切な行為です。「養」という漢字には、そのような食べ方の知恵が込められています。良食は、難しいことではありません。次の食事から食べ方や食事の環境に少し意識を向けて実践してみることで、より豊かな食生活を送ることができるでしょう。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年6月24日号掲載)

最新記事