国際観光旅客税(出国税)を被災地の再建に充てられないか 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授 連載「よんななエコノミー」
2024.02.26
今年は元日から大きな地震が石川県の能登半島を襲った。建物やインフラの被害が大きいだけでなく、亡くなったり、けがをされたりした方の数が日を追うごとに増えるのを見ると、本当に胸が痛む。
特に被害の大きかった能登地域は、輪島市の輪島朝市や七尾市の和倉温泉など観光地としても人気が高く、年間の入込客数は4市5町で770万人にも及ぶ(2019年)。その数は金沢市を中心とした金沢地域の1千万人には及ばないものの、温泉で有名な熱海市の720万人よりも多い。観光を支える産業の一つが宿泊業で、民宿などを含めると能登エリアだけで317軒(22年)もの宿があるが、地震による建物やインフラの被害が大きく、多くの施設で再開の見込みは立っていない。地方部の宿泊業、飲食業などは小規模な家族経営のところが多く、これから再建し観光客を呼び戻すのは大変なことだろう。
ところで、「国際観光旅客税」というのをご存じだろうか。邦人、外国人を問わず、日本を出国する渡航者から1人当たり1回につき千円を徴収するもので、俗に「出国税」とも呼ばれ19年1月から導入されている。導入の目的は〝観光先進国実現に向けた観光基盤の拡充・強化を図るための恒久的な財源を確保〟であり、使途は ①ストレスフリーで快適に旅行できる環境の整備 ②わが国の多様な魅力に関する情報の入手の容易化 ③地域固有の文化、自然などを活用した観光資源の整備などによる地域での体験滞在の満足度向上ーとされる。言ってみれば観光目的税であり、税収は主に観光庁や文化庁などの施策に使われている。
この税収、今回のような被災地の観光施設を再建する財源としては使えないものだろうか。コロナ禍前の19年度の訪日外国人旅行者数は3188万人、日本人出国者数が2008万人であることを考えると、乱暴な単純計算ではあるが500億円以上の税収になる。現在はまだインバウンド、アウトバウンドとも19年度レベルにまでは戻りきっておらず、税収としても決して大きな額ではないが、少なくとも観光のために使えるお金なのである。
天災は日本全国どこでも起きうる。また、一度災害が起きてしまうと、観光業の場合は施設の再建はもとより、マイナスイメージ払拭のための発信など、回復には他の産業より費用と時間がかかる。
政府は能登半島地震の被災地支援の政策パッケージとして1千億円規模の支出を23年度予算の一般予備費から行うというが、中でも再建の難しい観光業には国際観光旅客税からの援助も考えられるのではないだろうか。日本のインバウンド客はコロナ禍前に回復しつつある。この流れに取り残されないよう観光の再建も急がねばならない。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年2月12日号掲載)
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