ビジネスチャンスもたらす「環境DNA解析」 佐々木ひろこ フードジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」
2024.02.26
海や湖からバケツ1杯の水を汲(く)んできて調べれば、その水域にどんな魚がどれだけ生息しているかが分かる。そんな夢のような技術があることをご存じだろうか。
これは「環境DNA(eDNA)解析」と呼ばれる生物調査法。2015年に開発された環境DNAメタバーコーディングという手法によって、水中に浮遊する動植物の排せつ物や組織片に由来するDNA断片、つまり環境DNAを解析することで、簡単に、かつ大規模に、種のデータを得ることができる技術だ。(写真:採水作業の様子。注射器様の器械で水をフィルターに通し、浮遊する環境DNAを収集する、筆者提供)
いろんなハードルからなかなか進まない日本の水産資源データの収集・解析に、この手法が役立つ可能性があると聞いてしばらく、詳しく知りたいと思っていたところ、先日うれしい機会に恵まれた。日本中から研究者が集まる環境DNA学会の九州大会にお呼びいただき、貴重な採水エクスカーション(調査体験)に同行できたのだ。
当日は福岡・糸島半島の鉄道駅に集合。博多湾長浜海岸、農業用ため池、そして近隣河川を巡り、採水作業を行った。採取者に付着した余計なDNAが混入しないよう注意を払いながら、バケツに汲んだ海水やため池の水を注射器のような機器に通し、フィルターに残った物質を近隣の研究所に運んで解析を行う。とてもシンプルなこの採水作業によって、博多湾なら通常百種類もの魚種が明確に特定できるそうだ。
当日の参加者は、各地の行政職員や国内外の研究者に学生、さらにこの技術のビジネス展開を探る企業内研究者、ESG(環境・社会・企業統治)投資を扱う金融関係者など多様な面々。韓国から参加したという研究者に話を聞いてみた。なぜわざわざ日本へ?
「この技術は日本の研究者が開発したものだからです。欧米やアジアの産業界ではすでに利用・応用されている技術ですが、日本ではこれからなんですね」
学会の大会長を務めた九州大学大学院工学研究院の清野聡子准教授も、さまざまな産業に応用できる可能性が本当に大きい研究成果だと力を込める。
生物多様性保全が経済上の喫緊の課題としても耳目を集める今、水産資源調査に限らず、この技術を応用したビジネスチャンスは大きいはずだ。産業界の皆さま、研究事業の一層の発展のためにもぜひ注目を。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年2月12日号掲載)
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