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被災高齢農家、懸念される気力・復興力  小視曽四郎 農政ジャーナリスト  連載「グリーン&ブルー」

2024.02.19

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被災高齢農家、懸念される気力・復興力  小視曽四郎 農政ジャーナリスト  連載「グリーン&ブルー」の写真

 こともあろうに、元日の夕方に起きた大地震。住民は突然の大きな揺れと直後の家屋倒壊、さほど間を置かず襲った津波に、何が起こったかすぐに理解できなかっただろう。

 石川県・能登半島を揺さぶった震度7の大地震。250人近い犠牲者、1万4千人以上の避難者を出す一方、風光明媚(めいび)だった能登の景色に無惨な爪跡を残した。日本で初めて「能登里海里山」として、世界的に重要な農村文化や未来への遺産として指定された地域。だが、地震は陸地の隆起や陥没、亀裂で地形を激しく変形させ、至る所で道路を寸断、30にも上る集落の孤立、停電・断水と住民たちを追い詰めた。

 さらに震災発生から1カ月経て見えてきたのが、農地や農業施設、農家らの被災状況。犠牲者の中には、農家やJAなど多くの農業関係者も含まれていた。そして時間の経過とともに頭をよぎってきたのは、田んぼや畜産・酪農などが再開できるのかどうかだ。

 半島の突端、珠洲市で米など130ヘクタール経営の農業法人代表は、水田にできた大きな亀裂を目の当たりにし「こんな状態で春から田植えができるのか」と途方に暮れた。金沢市近郊でさえ、「被害が大きすぎて春の作付けまで復旧は無理だろう」と80歳の高齢農家。インフラなど「生活基盤が戻らないことには農業のことは考えられない」と、自分の農地がどうなっているのか見にさえ行けない農家が多いのが現状だ。

 政府は地震発生後3週間近くになって農地や水路、ため池などの農業被害は940カ所以上と発表。岸田文雄首相は「能登地方の経済は農林水産業が支えている」として強い支援を表明した。しかし、ビニールハウスを津波で流された能登町の高齢農家は「この地で農業を再開するのが目標。ただ、住み続けることも現実的かどうか」と先行きへの不安が色濃い。

 というのも、能登地域は少子高齢化が深刻な多くの地方でも特に高齢化率が高い。2020年国勢調査では65歳以上の高齢化率が珠洲市51・7%、能登町50・4%、穴水町49・5%、輪島市46・3%。石川県全体の30・0%、国内全体の28・7%を大きく上回る。一方で出生率は低く、「少子化どころか、高齢者も減って人口減も最後の段階」ともいわれる。

 輪島市内にある名勝、白米千枚(しろよねせんまい)田(だ)などの被災状況を上空から視察した坂本哲志農相は「農林水産業の復旧なしに能登の復興はないと知事から聞いた」と農家の営農再開に最大限の支援を表明。しかし、肝心の農家が高齢で「頑張ろうという気力、復興力を持ってくれるか」と地元JAは心配する。「苗や肥料、農薬のキャンセルがある。離農が増えて担い手不足に拍車が掛かれば、地域農業は維持できなくなる」と深いため息をつく。そこにはひとたび自然災害に見舞われれば、高齢農家の離農問題にすぐにつながってしまう今日の農業の危うさを示している。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年2月5日号掲載)

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