東日本大震災から能登半島地震へ 被災者たちの伝言 菅沼栄一郎 ジャーナリスト 連載「よんななエコノミー」
2024.03.04
奥能登の石川県輪島市の古民家で1月下旬の寒い夜、30人ほどの地元被災者らと向き合った際、東日本大震災の復興に携わった2人が話していた。
「この13年間、苦しいことばかりだった。もっとうまくできたのに、との反省ばかり。これから、復興を立ち上げる皆さんに経験を伝えたい」
宮城県石巻市雄勝町の阿部晃成さん(35)が切り出した。津波で8割近い約1300世帯が流されたが、地区にできた仮設住宅は約160戸だけだった。入居は高齢者優先。生業(なりわい)を持つ若い人たちは地区の外へ出た。高さ9メートルの防潮堤で海と隔てられ、高台移転を避けたい人も多く、人口は4分の1に減った。
「自分たちでこうした地域の将来をつくる、という考えをまとめておかないと役所に先行されてしまう」。阿部さんは力説した。輪島では仮設住宅の入居手続きが始まっていた。
「そうは言っても、家も家族もなくなって、心が折れてしまった仲間が多い。東北ではどうやって戻ってきたのか」。地元被災者がうめいた。
岩手県花巻市出身の高橋博之さん(49)が引き取った。
「これから入ってくるボランティアの人たちの応援が力になります。第2の故郷みたいに通ってきてくれますよ」
高橋さんは1月4日に能登に入り、全国の生産者ネットワークで集めた肉や野菜で避難所の炊き出し支援に回った。
震災当時、岩手県議だった高橋さんは三陸などの被災地を回るうち政治に限界を感じ、生産者と都会の消費者をネットで結ぶ「ポケマル」を設立。改名した「雨風太陽」が昨年末には1部上場を果たした。
数日後に能登半島地震が起き、現場に飛び込んだ。2日までに全国の生産者から野菜など38品目の支援を1530人の炊き出しにつないだ。被災者らとの座談会を重ねていく考えだ。
福島県からは飯舘村の長田卓也さん(40)らが2月上旬にかけて3回、片道8時間の能登支援に通っている。本欄でこの夏に紹介した、飯舘村特産インゲンの栽培を始めた小さな一般社団法人「阿武隈クラブIITATE」の副理事だ。県内外の仲間たちから、乾燥シイタケやリンゴ、新品種のイチゴ「とちあいか」などの支援物資を運んだが、中でも注目されたのは放射線の「線量計」だった。
半島西側の志賀町にある北陸電力志賀原発は元日以降、油漏れが相次ぎ、非常用発電機1台が停止するなどトラブル続き。長田さんが線量計を持っていくと「ありがたい。すぐ測って」。
異常はなかったが、「住民の関心は非常に高かった」。飯舘村は原発事故直後、政府の避難指示が1カ月遅れた過去がある。村民が今なお損害賠償請求訴訟中だ。同クラブの小林美恵子代表(68)は「住民が直接測り、自ら判断する必要がある」。その思いを込めて、線量計を三つ、地元の団体に預けた。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年2月19日号掲載)
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