ジビエで能登への思いも 畑中三応子 食文化研究家 連載「口福の源」
2024.03.04
「第8回ジビエ料理コンテスト」の結果が1月31日に発表された。駆除したシカとイノシシを食肉として活用するため、魅力的なレシピの開発を奨励し、ジビエ料理の普及を図るのが目的。私は第6回から審査員を務めている。
国産シカ・イノシシ肉を使ったおいしくて安全な料理であれば、和洋中エスニックのジャンルを問わず、プロ・アマ・年齢など不問でだれでも応募できる。おいしいだけでなく「安全」が条件に入っているのは、厚生労働省のガイドラインで加熱が義務づけられているのにもかかわらず、生や半生で提供する飲食店が少なくないからだ。
前回までプロ部門と一般・学生部門に分かれていたが、今回から「お店で食べたいジビエ料理」と「おうちで食べたいジビエ料理」に変わり、合計162点もの応募があった。一般・学生部門にもプロ部門に近いレストラン風の料理が目立ったのに対し、2部門の違いが明確になった。
12月の実食審査では各部門10点に絞り込んだ作品を10人の審査員が試食した。コロナ禍では代理調理を余儀なくされたが、お店部門は久しぶりに本人による調理と口頭での料理説明が復活し、活気あるコンテストになった。
お店部門は、主催の日本ジビエ振興協会代表理事で、フランス料理シェフでもある藤木徳彦さんが「すぐにでもレストランのメニューとして出せる料理がそろった」と感嘆するほどレベルが高かった。最優秀の農林水産大臣賞を獲得した作品は、一皿にイノシシ肉とシカ肉の両方を盛り込んだのが素晴らしかった。
甲乙つけがたく難しかったお店部門に対し、おうち部門はシチュー、パスタ、春巻き、たい焼き、おかず味噌(みそ)とそれぞれ個性的で、審査が楽しかった。何より良かったのは、将来、ジビエ肉がスーパーで買えるようになったとしたら、家庭でどんな場面に取り入れられるか、具体的なイメージが描けたことだ。
いちばん印象が強かった「シカ肉と飛騨産トマトのチーズ焼き~キャンプdeジビエ飯~」は、キャンプで親子一緒に作るシーンを想定したレシピ。設備が整っていないキャンプ場でも簡単に作れ、子どもでも食べやすく、油揚げとシカ肉とチーズがよく合うのに驚いた。(写真上:日本ジビエ振興協会代表理事賞を獲得した「キャンプdeジビエ飯」)
農林水産大臣賞に輝いたのは、「鹿の治部(じぶ)煮」。本来は鴨肉を使う金沢県の代表的な郷土料理で、家庭ではおもてなしや特別に日に食べる。鴨肉で作るよりあっさりとして繊細な味わいが新鮮だった。作者の辻太朗さんは、三重県立相可高校食物調理科の3年生。授賞式では、料理で能登半島地震の被災者を応援したいという思いが語られた。
受賞作品のレシピブックは、日本ジビエ振興協会のホームページで読める。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年2月19日号掲載)
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