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恵方巻きを憂う  野々村真希 農学博士  連載「口福の源」

2024.02.26

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恵方巻きを憂う  野々村真希 農学博士  連載「口福の源」の写真

 今年の節分も恵方巻きがたくさん捨てられたのだろうか。

 以前、関西に住んでいたころは、節分は好きな行事の一つだった。近所の神社で行われる節分祭や、祖母がつくる素朴な巻きずしを東北東とか西南西とかいうややこしい方角を向いて食べることが、毎年楽しみだった。けれどもいつからか私の中で、節分はスーパーやコンビニに恵方巻きが山積みになる日、売れ残りがいっぱい捨てられるやるせない日になり、心待ちにする行事ではすっかりなくなってしまった。

 恵方巻きの売れ残り廃棄問題は近年話題になることが増えてきたので、ニュースなどで一度は耳にされたことがあるだろう。ジャーナリストの井出留美氏はコンビニやスーパーの恵方巻の売れ残り数を毎年独自に調査しているが、昨年の節分では100本近くの恵方巻きが売れ残るコンビニが散見されたと報告している。宮本勝浩・関西大学名誉教授の2019年の推計によれば、廃棄される恵方巻きは全国で約10億2816万円にもなるという。日本で生じる食品ロスは、棟居洋介・東京工業大学助教らの推計で年間約4・6兆円であるから、それに比べればしれてるよねとか言われることもある。しかし、たった一日で、たった一つの品目だけでこの額になるのだからなかなかだ。(画像:愛すべき祖母の巻きずし、筆者画)

 クリスマスケーキやバレンタインのチョコレート、土用の丑(うし)の日に食べるウナギも、同じような廃棄問題がある。小売店にとって重要な集客アイテムとなっている季節行事食品は、販売機会を逃さないよう常に棚にあるようにしておくという目的と、たくさん並べることでお客の購買意欲をかき立てるという目的から、いつも以上に大量生産され、そしていっぱい売れ残って廃棄されている。行政もこのような状況が目に余るようで、農林水産省は19年から、恵方巻きをはじめとする季節食品の需要に見合った販売を小売店に呼びかけている。一部の小売店は予約販売などを実施して対応し、恵方巻きの廃棄率に改善がみられたようではある。

 ハロウィーンもいつの間にか恒例行事と化し、次はイースターイベントも定着する気配で、季節行事をマーケティングの道具として利用する動きは今後ますます進みそうである。けれど、売れ残り大量廃棄問題はもちろん、季節行事食品のくせに季節も地域もゆかりのない材料で作られ、行事の背景にある文化を感じる余地のない商品たちに、興ざめしている消費者は少なくないはずだ。季節行事との付き合い方を見直さないといけない時が来ていると思う。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年2月12日号掲載)

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