オーバーツーリズム問題 「住民の満足」が解決の鍵 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授 連載「よんななエコノミー」
2023.08.21
コロナ禍による行動規制がなくなり、国内旅行、インバウンドともに旅行者数はコロナ禍前の水準に戻ってきたが、それと同時にオーバーツーリズム(OT。観光公害とも)を懸念する声が再び上がっている。(画像はイメージ)
OTとは、著しい旅行者の増加により生活や自然環境、景観に負の影響をもたらすとともに、旅行者の満足度も低下させる状況をいうが、2016年に米国メディアで初めて使われた比較的新しい言葉でもある。
日本では京都や沖縄、白川郷など有名観光地の混雑やマナー問題が大きく取り上げられているが、実は騒音や幹線交通の混雑、飲食・ホテル代、不動産価格の高騰など都市部にも影響が及び、ヨーロッパなどでも社会問題となっている。
近年、OTが生じた背景には、アジアをはじめとした新興国の経済発展などにより国際観光旅客が大幅に増加したことや、LCC(格安航空)の出現により低価格な移動手段が増加したこと、「その土地ならでは」のレアな体験が過度に求められるようになった結果、これまで観光客の行かなかったエリアにまで人が行くようになったこと、SNSなどの情報拡散により一気に人気スポットが出現したことなどがある。一般に、団体旅行がOTの一因と言われることも多いが、むしろ行動のコントロールがしにくい個人旅行者の影響が大きい。
しかしながら、このOTが問題視される根底には市民感情というものがある。私たちは自分が旅行するのは好きだが、受け入れ側になることにはやや抵抗がある。なぜなら、受け入れ側としてメリットのあるのは観光関連産業であり、一般市民にはあまりメリットがないからだ。
また、近年、わが国では物価高や円安が進行し、自分が旅行を楽しむことがままならない中でインバウンドばかりが増えていけば、いら立ちの感情が生まれるのも当然だ。UNWTO(国連世界観光機関)が18年に行った調査でも「観光によって経済的に好影響がある」とする人の割合は、オーストラリアでは72%、スペインで64%に上るが、日本ではわずか25%にとどまってる。
こうしたOT問題について、UNWTOが解決策として12の戦略と対策を示している。それには観光客の分散やインフラ整備、ターゲット設定の明確化などが挙げられているが、中でも「確実に地域コミュニティーが観光から利益を得られる仕組み」「住民と訪問客双方の利益になる都市体験の創出」という〝住民の満足〟に関する項目は重要で、これまでの日本の観光戦略にはなかった視点だ。
観光振興の重要なプレーヤーの一人は地域住民であり、その理解がなければ実現しないことを忘れてはならない。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年8月7日号掲載)
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