嫌われ「アイゴ」、逆手に取って商品化 佐々木ひろこ フードジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」
2023.08.21
「アイゴ」という魚をご存じだろうか。平たく茶褐色の魚体に小さな口を持ち、成魚で体長25〜30センチほど。九州や四国から本州にかけて、沿岸部に広く生息するこの魚が今、各地で大きな話題となっている。
話題と言っても、残念ながら良いほうのそれではない。全国の近海で海藻が消える「磯焼け」という現象が深刻度を増しているのだが、それを引き起こす要因の一つとして、このアイゴの食害が挙げられているのだ。
アイゴは南方系の草食・雑食魚。近年の海水温上昇に伴い、どんどん北上しているだけでなく、暖かい時期に限らず通年で活性を保つようになり、食欲旺盛に藻を食べ続けている。さまざまな魚が卵を産みつけ、幼魚が敵から身を隠す「海のゆりかご」である海藻が減ることは、その海の多くの魚が減ることに直結する。
さらに、アイゴが漁業者から嫌われる理由はこれだけではない。ヒレに毒腺を持つトゲがあり、触れると強い痛みが続くこと、そして水揚げ直後の的確な処理がなければ悪臭を発するため、一部地域を除き商品価値がほとんど認められないこと。こうした背景から、たとえアイゴが網に掛かっても、そのままリリースされてしまう地域が多いのだ。
生態系のバランスが崩れた海からアイゴの個体数を減らすためには、取って食べるサイクルをつくることが効果的に違いない。しかもきちんとした処理さえすればおいしい魚なのだからー。多くの人のそんな思いから、私がコアメンバーとして活動している「Tカード みんなのエシカルフードラボ」(CCCMKホールディングス主催)の「未利用魚活用プラットフォーム」では、先日ある商品を生み出している。
「アイゴあふれるオイル漬け」(写真右端の瓶)は、愛媛県八幡浜市の加工事業者、ホテル、行政、東京都内の流通事業者、そしてエシカルな食を生活に取り入れているT会員がタッグを組み、マルチステークホルダー(複数の利害関係者)による対話と試作を重ねて開発した商品だ。濃厚な旨味を持つアイゴに、八幡浜特産のみかんの皮、たっぷりのナッツなどを合わせたオイル漬けは「未利用魚」という思い込みを軽く飛び越えたおいしさで、クラッカーに乗せたりパスタに加えたり、豆腐と合わせたりとさまざまに楽しめる。
海の課題解決をみんなで、そしておいしさと楽しさからー。本ラボの活動は、私たち「Chefs for the Blue」の理念にも通じている。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年8月7日号掲載)
最新記事
-
日本水産物輸入67%減 中国8月 週間ニュースダイジェスト(9月17...
▼日本水産物輸入67%減 中国8月(9月18日) 中国税関総署が発表した貿易...
-
人口減少時代の水道事業 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員 ...
全国の水道事業が曲がり角を迎えています。過疎地域を抱える水道事業者は、給水人口...
-
政府備蓄米を維持し、気候変動に対処せよ 小視曽四郎 農政ジャーナリス...
世界の平均気温や海水温が相次いで過去最高を記録し、日本の夏の平均気温も125年...
-
処理水放出「懸念ほどの消費減ない」 韓国政府 NNA
韓国海洋水産省は9月12日、東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出以降...
-
岸田再改造内閣が始動 週間ニュースダイジェスト(9月10日~16日)
▼食料危機時に生産転換指示 農業基本法改正へ(9月11日) 農林水産省の有識...
-
良食に最適な「豆」 安武郁子 食育実践ジャーナリスト 連載「口福の...
暑い夏といえば、生ビールでしょうか? 最近は健康志向の高まりもあり、低カロリー...
-
「サードプレイス」を求めて 心地よい福井県坂井市の施設」 沼尾波子 ...
人々のつながりの希薄化を背景に、社会において、家庭でも職場・学校でもない第3の...
-
港町から広がる多様な共創 中川めぐみ ウオー代表取締役 連載「グリ...
「競争より共創を」。そんな言葉を多くの機会で聞くようになりました。共創とは、多...
-
宮下農相、水産風評対策が試金石 不毛なWTO協議 アグリラボ編集長コラ...
「処理水」を「汚染水」と言い間違え、内閣改造の前日に「これ以上は息が切れてしま...
-
耕畜連携を主流に フォーラム「食料安保障と地域資源循環の強化に向けて」...
農林中金総合研究所は9月14日、フォーラム「食料安全保障と地域資源循環の強化に...