ウニの再生養殖、北三陸から世界へ 中川めぐみ ウオー代表取締役 連載「グリーン&ブルー」
2023.08.07
世界規模で起こる異常事態の一つ、磯焼け(沿岸の藻類が著しく減少・消失した状態)をご存じですか? 藻類は魚の産卵場や、すまいとして重要な役割を担っており、磯焼けの進行は海の生態系が著しく崩れることにつながります。
原因としては温暖化など自然環境の変化も挙げられますが、注目されているのが実はウニ。ウニは雑食で、目の前にあるものを何でも食べてしまいます。藻類を食い荒らして磯焼けを引き起こすのと同時にゴミも食べてしまうため、身入りも味も悪いウニが多発。世界中で厄介者扱いされています。(写真はイメージ)
そんなウニをおいしく育て、地域経済の発展に貢献しているのが、岩手県洋野町にある「うに牧場」。もともと広大な岩盤地帯があった沿岸で、半世紀ほど前に水産業を営んでいた先人たちが溝を掘り、天然昆布が生える海の畑をつくったのです。そこに近隣で取ったウニを放ち、昆布だけをお腹いっぱい食べさせたところ、身入り・味ともに抜群のウニを育てることに成功しました。
2018年には「北三陸ファクトリー」という法人が設立され、北海道大学などと連携して、ウニの養殖用飼料や生け簀を開発。洋野町以外の磯焼け海域でもウニの再生養殖を行っています。
さらに他国にも寄与しようと、被害の深刻なオーストラリアへ進出。今年4月にメルボルンで法人を設立し、現地の大学やベンチャー企業と連携してウニの陸上再生養殖に取り組み始めました。
これらの取り組みは水産資源の回復や地域経済活性化の他に、もう一つ大きな成果を生み出します。それは近年注目度が高まっている「ブルーカーボン」への貢献。実は陸(森林)よりも海(藻類)のほうがCO2を吸収するというデータもあり、磯焼けの改善は地球温暖化の抑制にも大きな意味を持つのです。
ブルーカーボンは未知の要素が多く、クレジット化の前例もまだ少ないのが現状ですが、この仕組み化に向けて国内企業との連携を始めているそうです。
このように驚くほど多くの地域、プレーヤーを巻き込んで躍進を続ける北三陸ファクトリー。この原稿が出る少し前には国内外から水産関係者、シェフ、多様な業種のリーダーたちを招いた「うにサミット」も開催し、未来へのアジェンダ(行動計画)を話し合いました。
しかし代表の下荢坪之典さんは「まだまだ」とその先を見ています。その原体験にあるのは、子どもの頃に遊んだ地元の海。当時は昆布などが生い茂り、まるで林のようだったそう。そのおかげで海産物がたくさん取れ、みんなが稼げて笑顔があふれていた。「次の世代が継ぎたいと思える水産業」。これを北三陸を起点につくっていくのが目標だそうです。この思いと熱量に、今後も多くの人が望んで巻き込まれていくでしょう。筆者もその一人として、共に明るい未来を描いていきたいです。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年7月24日号掲載)
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