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拡大する昆虫食市場 低価格化が課題   岡千晴 矢野経済研究所フードサイエンスユニット研究員

2023.07.11

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拡大する昆虫食市場 低価格化が課題    岡千晴 矢野経済研究所フードサイエンスユニット研究員の写真

 アジア、アフリカ、南米などで昆虫を食べる文化があるほか、日本でもタンパク源としてハチノコやイナゴなどを伝統的に食べてきた地域がある。内陸部など一部の食文化としてみられていたが、この数年で食用コオロギなど昆虫の養殖に取り組む企業が増えており、大手企業が食用昆虫の粉末を原料に使ったスナックを発売した。(写真はイメージ)

 食用昆虫をタンパク質として利用する流れは、欧米が先行している。世界的な人口増加に対する食料危機への懸念に対して、新たなタンパク源として活用する狙いの他、現在の食料生産システムでは地球環境への負荷が大きいとして、牛や豚、鶏等の畜産に比べて生産時に二酸化炭素の排出量が少ないとされる昆虫をタンパク源として利用することを目指している。

 商業利用されている昆虫として、世界的にはコオロギやミールワームが注目されている。国内では、数多くのスタートアップ企業がコオロギを生産、食品原料として販売している。日本の企業の中で、生産拠点を海外に置いているケースも多く、現地生産や委託生産などの形で気候が適するタイやカンボジアなど東南アジアで生産加工し、原料として輸入している。

 国内で生産する企業も多く、先行するグリラス(徳島市)は、NTT東日本と情報通信技術(ICT)や多様な機器を通信でつなぐモノのインターネット(IoT)を活用した食用コオロギのスマート飼育の確立をめざす実証実験を2023年1月から展開している。現時点では、代替タンパクとして活用するには供給量が少なく、価格が高いことが課題の一つであり、生産体制の確立が必要とみられる。

 この他、ミールワームやアメリカミズアブ、カイコなどが国内で養殖されている。コオロギを含め、食用に使われる昆虫原料は、食品としての基準を満たすために、適切な管理で生産されている。原料にした際も残留農薬検査などを実施し、安全性を確認して販売されている。

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 飼料は、虫の種類によって異なり、食品残さを活用した生産方式を取っている企業もある。これらの用途としては、食用のほか、飼料原料として活用されている例もある。例えば、カンボジアを生産拠点とするスタートアップ企業のエコロギー(東京)ように、小規模農家の副業としてコオロギ生産を支援し原料として買い取るケースもある。

 ここでは、現地の日系企業の菓子工場で発生する廃棄物などを飼料として利用している。乾燥したタイプのエサを好むコオロギに対して、アメリカミズアブは、生ごみなど湿ったエサをよく食べる。このことから、廃棄物処理業者が試験的に食品残さを使ったアメリカミズアブの生産に取り組んでいる事例もある。国内で食用にカイコを育てている企業では、キャッサバの葉を飼料として活用し、キャッサバの芋の部分は野菜として販売するなど、昆虫によってさまざまな生産手法を取っている。

 以前から、爬虫類向けの生餌などに昆虫の幼虫が利用されていたが、水産養殖や畜産での飼料利用の研究も進んでいる。東南アジアなどではすでに実用化されているという。また、欧州でも大規模なミールワームの養殖場の建設計画が発表されており、水産養殖向けの飼料などに使われる計画だ。

 世界的に魚粉価格が高騰しているものの、昆虫ミールの価格は現時点では魚粉を上回っており、養殖飼料として活用するには供給量が少ないことから、国内での実用化はこれからとみられる。水産養殖に関する研究によると、多くの魚種で魚粉代替として問題がなく、中には健康状態の改善につながるという研究結果もある。

 ただ、生産者の多くがスタートアップ企業であるため、生産規模が限られ昆虫原料は高価だ。魚粉の代替の場合、1キログラム当たり数百円の水準にしないと競争できないが、現在は、数千円といった価格だ。さらに、消費者が間接的な昆虫食を許容できるかといった点も懸念されている。昆虫ミールを食べて育った養殖魚を受け入れるかどうかだ。特に日本では、環境負荷が少ない商品を優先的に選択する人が多いとは言えず、昆虫ミールの導入が進みにくい要因となっている。

 食用の昆虫についても、嫌悪感を持つ人が少なくないことから、昆虫食の関連企業は丁寧に情報発信している。関係者は、畜産物や魚介類に代替するタンパク源としてはではなく、限りある資源を活用したタンパク源の一つとしてとらえている人が多い。今後起こり得る食料危機に対しての備えの一つとして昆虫食を継続し発展させたいという。

 矢野経済研究所は、2020年の昆虫食の市場規模は約3億円と推計している。今後は、緩やかに伸長し、2030年には約37億円超に達すると見込んでいる。業界が一丸となって情報発信をすること、手に取りやすい商品ラインアップの拡充や消費者の需要喚起などが今後の市場拡大の鍵を握る。

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