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食料自給率の目標、学生はこう見ている  青山浩子 新潟食料農業大学准教授  連載「グリーン&ブルー」

2024.07.01

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食料自給率の目標、学生はこう見ている  青山浩子 新潟食料農業大学准教授  連載「グリーン&ブルー」の写真

 大学2年生向けの講義で、食料自給率を取り上げた。「食料・農業・農村基本法」の改正に向けて、議論が盛り上がっていた頃だ。1999年に基本法が施行され、一度も達成できなかった自給率目標を新たな基本法でも設定すべきかどうか。学生たちに考えてほしいと思った。(グラフは日本の食料自給率の推移)

 自給率について一通りの話をした後、「新たな基本法の下でも目標を設定すべきか」を尋ねた。91人のうち、49人が「すべきだ」、42人が「すべきではない」と回答した。後者の「すべきではない」と答えた学生のうち、「自給率は消費者の食生活の結果で、目標設定そのものに意味がない」と答えた学生はわずか2人。大半が自給率の意義を認めたことを最初に断っておく。

 では、回答の分かれ目はどこにあるか。「設定すべきだ」と答えた学生にむしろ厳しい意見が目立った。「これまで達成できなかった理由を検証すべきだ。その上で、向上策を講じるべきだ」という答えがかなり目立った。「目標自体知らない消費者がほとんど」「日本の政策は表現が曖昧で、国民が理解できない言い回しでごまかしているように思える」など辛辣(しんらつ)に述べた上で、目標設定を支持する学生もいた。

 一方、「設定すべきではない」と答えた学生のほうが、自給率目標の意義を認識しているようだった。彼らは頭ごなしに目標設定を否定しているわけではなく、「ハードルを下げて実現可能な目標設定に転換すべき」と述べている。また「スイスのように家庭内備蓄を推奨すべき」とか「輸入を制限するなど思い切った政策も検討すべき」といった声もあった。

 また、回答にかかわらず、「生産力を強化するための生産者支援」「生産性向上のための技術開発」など生産現場への支援強化を訴えた学生も少なくなかった。消費者の関心を高めるため、「フードロスやダイエットや健康志向など消費者の関心あるキーワードと国産の良さを連動させ、楽しみながら参画できる取り組みを、川下の産業と一緒に考えるべき」という声には納得させられた。

 自給率目標にそっぽを向く学生が多いと思っていたが、よい意味で裏切られた。大半の学生が食料自給率の維持・向上は重要だと考えている。5月29日、改正基本法が成立した。今後策定される基本計画において、食料安全保障に関係する新たな指標とともに、自給率目標も引き続き設定されることになった。将来の担い手である若者の意見に耳を傾け、彼らが参画したくなるような向上策を打ち出すことが今度こそ求められている。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年6月17日号掲載)

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