卵が足りない!鳥インフル拡大、豪で供給難 NNAオーストラリア
2024.07.05
オーストラリアで高病原性鳥インフルエンザの感染が拡大している。5月22日に初めてビクトリア(VIC)州の養鶏所で確認されて以来、現在までに複数の州に広がり合計11カ所に増加した。これまでに180万羽を超える鶏が殺処分され、卵の生産量が減少し、サプライチェーン(供給網)全体に影響が出ている。牛にも感染が広がった米国では当局が牛肉や牛乳の検査に乗り出したが、オーストラリアではその可能性は低いとされる。(写真はイメージ)
鳥インフルエンザの感染は7月3日現在、VIC州で8カ所、ニューサウスウェールズ(NSW)州で2カ所、首都圏特別区(ACT)では1カ所で確認された。すべての感染施設の周囲に制限区域が設定され、鶏や飼育機器などの移動が制限されている。専門家によると感染源は野生の鳥類とみられるという。
業界団体オーストラリアン・エッグ(AE)によると、国内の採卵鶏は23年6月時点で2183万羽。このうち殺処分されたのが約1割に上る計算だ。包装施設も閉鎖されたことで、東部州を中心に供給に圧力がかかっている。
小売り大手コールズは、6月第2週に西オーストラリア州を除く全国で卵の購入制限を導入した。また、同業ウールワースも先月27日、VIC州、NSW州、ACTで顧客の1回の購入を最大2カートンに制限した。同社は今後数カ間の在庫を調整するための予防措置だとしている。
さらにファストフード大手のマクドナルド・オーストラリア(豪マクドナルド)も今月2日、鶏卵を利用する朝食メニューの提供時間の短縮を決めた。同社は声明で、「ほかの小売店と同様に、現在の業界の課題のため卵の供給管理を慎重に行う」とした。
■需要増で価格上昇か
ただしこうした小売業界の取り組みは、サプライチェーンの一時的な混乱を整理するためという声も強い。ウールワースは、「別拠点の施設の操業が開始すれば供給は回復する」とし、購入制限は短期的な措置だとした。
AEも、「鳥インフルは業界の一部に影響したのみで、供給は若干混乱するが卵が全国的に不足するものではない」との声明を発表。コールズが購入制限を導入した直後、「この措置は消費者に誤ったメッセージを与える」と非難している。
一方、国内最大の独立系スーパーチェーンで食品小売りIGAを140店舗運営するリッチーズIGAのハリソン最高経営責任者(CEO)は、鶏卵の小売り需要が現在10-20%上昇していると指摘した。現状では供給は維持できるものの、販売価格は上昇すると予想した。すでに一部サプライヤーからは4-5%の値上げが提示されているという。
同CEOはまた、「現状では供給の管理は可能だが、(感染が)拡大すれば新型コロナウイルス流行時のトイレットペーパー・パニックのような大きな問題になる」と述べている。
AEによると、オーストラリアの1日当たりの鶏卵消費量は1890万個。国民1人当たりの年間消費量は263個(23年度)で、過去8年間で19%増加している。
■豪では牛への感染可能性低い
鳥インフルエンザを巡っては、米国では牛に感染し影響が広がっていることから、オーストラリアでも懸念する声が上がっている。だがオーストラリア科学産業研究機関(CSIRO)疾病予防センターのフランク・ウォン博士は、「国内の感染は米国で家畜に被害をもたらしているH5N1型やその関連ではなく、鶏から牛へ感染が広がる可能性は非常に低い」と述べた。
国内で発生しているのはH7N3型、H7N9型(ともにVIC州)、H7N8型(NSW州)の3種類。ウォン博士によると、遺伝子分析ではこれらは密接に関連しておらず、野生の鳥類にみられる毒性の低い株との関連が判明した。このため同博士は「国内各地の感染はそれぞれが独立的に野生の鳥類から感染し、高病原性に変異したとみられる」と分析した。高病原性とは10日以内に6羽以上の鶏を死亡させる高い病原性のこと。また、牛に影響を与えるH5N1型は米国に限定されており、米国外での鶏や家畜の感染報告もないとした。
■フリーレンジでリスク
シドニー大学のホセ・キンテロス博士も、「牛への感染は可能性が非常に低い」と述べた。ただ同氏は、フリーレンジ(放し飼い)方式の養鶏場が増加したことで、採卵鶏とウイルスを持つ野生の鳥類が交わり、毒性の強いタイプが出現する可能性があると警告している。
また、オーストラリアではフリーレンジでの産卵数が減少する冬季を迎えていることも、感染が拡大した場合の回復リスクとされる。フリーレンジ鶏の産卵効率を最大化するには、日照時間が1日当たり約15時間必要という。
オーストラリアでは動物保護の観点からフリーレンジ卵の消費者需要が急拡大し、現在は販売額の61.7%を占める。
オーストラリアの鶏卵生産量は年間66億8000万個で、ニュージーランドではおよそ10億個とされる。
(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 7月5日号掲載)
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