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観光の「チカラ」地方へ  森下晶美 東洋大学国際観光学部教授   連載「よんななエコノミー」

2023.06.12

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観光の「チカラ」地方へ  森下晶美 東洋大学国際観光学部教授   連載「よんななエコノミー」の写真

 観光に大きな期待が寄せられる理由の一つに地方への経済効果がある。旅行者の方から消費に来訪してくれる観光という行動は、地域の自然や文化そのものが商品となるため新たな設備投資などは不要であること、一つの産業だけが発展するのではなく複数の地場産業に恩恵があること、地域の認知度が上がること、などから地方にはありがたい経済活性化策といえる。

 では、観光によって地方への経済効果はどのくらいあるのだろうか。特に期待がかかるインバウンドの例で見てみたい。三大都市圏(東京・千葉・埼玉・神奈川、愛知、大阪・京都・兵庫)とそれ以外の地方を比較すると、訪問者数においては2012年に三大都市圏が453万人なのに対し地方は383万人であったが、18年では三大都市圏1319万人、地方18000万人となっており7年間で逆転している。

 特にこの時期の伸び率は三大都市圏が2.9倍であるのに対し、地方は4.7倍と地方の伸び率の方が高い。また、旅行者の消費額(19年度)においても、全体消費額では訪問者数の多い三大都市圏が高いものの、1人当たりの消費額ではトップ20の多くを地方が占めており、インバウンド観光の地方への経済効果が認められる。

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 こうした地方の伸びには大きく二つのマーケット要因がある。一つはリピーターの増加で、インバウンド旅行者全体では64.2%(19年度)が来訪経験2回以上のいわゆるリピーターであるが、実は来訪回数が増えるにつれ訪問したことのない地域への来訪意向は高くなる傾向にあり、リピーターのうち6~7割が未経験地域への来訪意向を持っている。初めて日本を訪れた旅行者は三大都市圏や有名観光地に足を運ぶが、複数回日本を訪れることで徐々に地方へ広がっていく。

 もう一つはインバウンド旅行者の旅行目的がコト消費へシフトして来ていることがある。旅行目的として「訪日前に最も期待していたこと」のアンケートを見ると、14年に「地方型コト消費」を期待していた旅行者は28.2%であったが18年には34.8%まで増えており、コト消費と言われる中でも特に地方で行うものを希望する旅行者が増加している。

 また、実際にインバウンド旅行者が日本で行った活動で満足度の高かったものをランキングでみると「日本食を食べる」「日本の酒を飲む」「旅館に宿泊」「温泉入浴」「自然景勝地観光」の順で上位に挙がっており、いずれも地方に優位性がある。

 このように、インバウンド観光による地方の経済効果は徐々に表れてきており、さらに近年のコト消費の人気の高まりは、これからの地方観光に大きな可能性を感じさせるものである。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年5月29日号掲載)

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