農家急減の後に来るもの 小視曽四郎 農政ジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」
2023.06.05
このところ相次ぐ少子化加速の報を聞くにつけ、共通性を強く感じるのは、農業従事者数の減少との関係だ。農業の人手不足の深刻さは分かっていたが、「あと20年後には基幹従事者が今の4分の1の30万人」(農林水産省)と聞いて改めて驚く。2022年の基幹的従事者数123万人のうち50代以下が25万人程度にとどまるためという。(写真はイメージ)
しかし、現実に30万人で1億人以上の食料をどれだけ満たせるのか。得意の輸入による調達は、これまでとは違い不透明。備蓄にも限界がある。恐らく「デジタル農業」とやらを駆使する構えだろうが、思惑通りに進むのか。「食料・農業・農村基本法」の見直しに向けた論議でより厳しくチェックすべきだ。
少子化の原因は直接的には婚姻数の減少、生涯独身の増加、結婚後の出産見合わせだが、背景にあるのは規制緩和による非正規雇用の増加や賃金抑制、男女間の賃金差別や結婚後の家事・育児の女性への偏り、出産後の高い教育費などがある。結婚への意欲は低下し、結婚後も子どもをつくらない。
要は経済的な余裕のなさや将来的な不安、展望のなさが男女の交流をも阻害し、少子化が進む。出産費用や保育料など子ども対策の前に、まずは親世代になる若者たちの経済的な不安をどれだけなくすかが鍵だろう。
農業従事者の急激な減少も、収入と将来的な展望のなさが要因。今更ながらだが、農業従事者の減少は戦後の高度成長による労働力流出は仕方ないにしても、大規模化による零細農家の追い出しや市場原理による生産コストを無視した取引で農家所得が低迷したことが響いている。
さらに、相次いだ大型貿易協定締結の末、海外農産物が押し寄せ、親は子に先行きの見えない農業の後継を勧めなかった。コメはかつての60㌔当たり平均2万2000円が、今は1万2000円程度。何度かの大暴落で1万円を割った。麦・大豆への誘導はコメに比べて有利さが少なく、政府は減反からも手を引いた。現行基本法の「効率的かつ安定的な農業経営」が災いしたとしか思えない。
1960年代以降、約30年は農業従事者の6割を女性が占めていたが、「女性の農業・農村離れ」が進み、今や25〜44歳の子育て世代の減少が高まっているとは福島大の岩崎由美子教授。高学歴化しているのに活躍の場がないのだという。若い女性がいなければ男性も減り、農村も少子化する。若者が希望を持てる農業を政治が責任を持って示さなければ流れは止まらない。
最悪は労力不足対策としてドローンやセンサーで管理・制御しデータを駆使するデジタル農業の促進で、世界的IT企業やグローバル企業が乗り出してくることだ。いつの間にか農家が追い出され、アグリビジネス企業が生産から消費まで日本人の食と農を差配するのは悪夢というしかない。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年5月22日号掲載)
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